洋上風力発電



【次世代カーボンファイバーで洋上風力発電基地を!】

 金属に代わる素材として注目されているカーボンファイバー(CF:炭素繊維)。金属より軽量で、頑丈。よって航空機素材として需要が高まっている。日本は既に世界最大の生産国だ。

 「しかし、最先端素材にも弱点はあったのです」と語るのは太田俊昭・九大名誉教授(構造工学)。カーボンファイバー、読んで字のごとく“ファイバー ”(繊維)をプラスチックで固化したもの。「だから、引っ張りには極めて強いが、圧縮には弱い。固化材のプラスチックは圧力にはもろく、引っ張り強度の 10分の1以下。だから圧縮にやられる」。加圧では鉄筋コンクリートに負ける。

 そこで、教授はカーボン繊維を何百万本も束ねて棒状にして圧縮力を与えるなど物理加工を試みた。すると炭素繊維は内部膨張し応力発生して超堅牢カーボンファイバーが誕生した。引張強度に加えて、強い圧縮強度や接合能も獲得したスーパーカーボンファイバーが世界で初めて完成したのだ。この夢のカーボンファイバーは、第二世代、セカンダリーカーボンファイバー(SCF)と命名された。これで、鉄やコンクリートを完璧にしのぐ夢の素材となった。


【8大学合同“夢のプロジェクト”】

 そこで太田教授は、新しい夢にチャレンジを開始した。それが洋上風力発電だ。この夢のカーボンファイバーが、エコ技術として大きく羽ばたく場を見つけたのだ。教授の言う“ブレイクスルー素材”、このSCF登場で、風力発電は効率、建設コストともの飛躍的向上が可能となった。

 日本の風力発電エリアでは風速平均4mの風が年に3分の1ほどの期間吹く。それが洋上だと風速は約2倍となる。デンマーク、ドイツ、英国など世界の風力発電先進国がこぞって洋上発電にシフトしている理由だ。

 太田教授は京大、宮崎大など国内外8大学から研究者たちを募って合同研究チームを発足させた。建設、土木から海洋生物学まで、まさに学際混成チーム。海上ウィンドファーム構想は、海上にハチの巣状に浮かべた六角形のコンクリート構造物(一辺300m)の上に、従来の3倍以上の風力を得る直径100mの超大型風レンズ風車を設置する。素材はもちろんSCFだ。


【発電能力4倍の超大型風レンズ風車、浮体の寿命100年以上】

「これまで最大で5MW(メガワット)の発電能力が3~4倍の15~20MWと飛躍的に増加します」。   

 送電線は使わず、発電した電力で海水を電気分解して“水素”をつくり、それを船で陸上に運ぶ。後は水素発電や燃料電池に使う。風車、浮体などに使用する新素材SCFの耐用年数はなんと100年以上…! これにより大幅なコストダウンが可能となる。

 この浮体式の風力発電基地では原発1基分に相当する100万kW発電を、超低コストでめざす。海水を逆浸透膜で真水に変え、水素を生成・貯蔵する技術も、他分野の研究者の知識が活かされている。

 新素材SCFは (1) 風車本体、(2) 水素容器、(3) 浮体 ―― のすべてに活用される。日本最新の頭脳による「高強度素材」「効率的風車」「水素貯蔵」など先端技術が結集した夢のプロジェクトだ。資金の目途がつけば7~10年で実用化可能だ。


【内側の静水域で養殖漁業を行う】

 どうして、このSCF風力発電が抜群の効率を確保できるのか?

 まず建設コスト。1kW当たりで試算する。現在世界で推進されている洋上タイプは着底式。遠浅の海上でないと建設不能だ。日本でも北電、東電、東大などが取り組んでいる。構造の補強材は鋼製。陸にケーブル送電を行い建設費は陸上の2倍、約40万円かかる(kW単価)。この着底方式は、地震やメンテナンス、さらに漁業補償などの難点も抱えている。

 さて、太田教授らの浮上式SCF風力発電基地の建設費は、なんと10万円という安さ。「素材SCFが軽量、頑丈、耐久と3メリットあるからです。さらに六角形の中抜き構造なので、波浪、台風にも安定性があります」と教授の声も明るい。

 「さらに…」と驚くべきアイデアも教えてくれた。「径600mくらいの六角構造の内側は静水域。ここを養殖池として使う。コンクリート浮体の底に丸窓を開けて、そこから発光ダイオードで光を当て、餌になる有用プランクトンを増殖させるのです」。

 風力発電装置が漁業養殖装置を兼用する。一方は漁業補償。こちらは漁業振興。ダブルメリットの面からも九大プロジェクトに軍配が上がる。

 ここでは九大農学部(水産業)の研究者が実力を発揮した。発光ダイオードの特定の波長は赤潮プランクトンなど有害微生物の発生は抑制する、という細かい芸当まで行う。「30人近い、各分野の先生たちが集まってくれたおかげです」と太田教授。


【政府よ 国策として建設を推進せよ】

 「研究費です。ある財団に応募して通れば6000万~7000万円の研究費が得られるのですか…。それが入れば水槽で実証試験ができます」。なんと、先立つもので、これほど困窮しているとは……!

 経済大国の名が恥ずかしい。「良すぎて使えない」という変な断り文句を思い出した。

 しかし、この超エコ素材に着目する機関も増えている。一万m以上もの深海探査を行う海洋研究開発機構がSCFの超軽量・高強度に着目したのだ。彼らはこれまでチタン合金を使用してきた。それに代わる素材としての期待だ。横浜港湾技術研究所も鉄筋コンクリートに代わる高耐蝕性の土木建材として注目。提携を申し入れてきた。

 「じつは、SCFの魅力はまだまだあるのです」と太田教授。「“情報”も封じ込めることができるのです。つまり光ファイバーも通せる」。ナルホド……。「さらに、これまで不可能だったカーボンファイバーの高接合技術も日、米、加で国際特許を取っています」。政府よ、国策としてSCFウィンドファーム建設を推進せよ。また外国に盗まれるなどの愚は、繰り返してほしくない。


【人】
 太田俊昭・九大名誉教授(構造工学)

【Link】
 次世代カーボンファイバーで洋上風力発電基地を!