宇宙は何でできているのか

序章 ものすごく小さくて大きな世界

村山さんの問いかけ
「宇宙はどうやって始まったのだろう?」
「どういう仕組で動いているのだろう?」(基本法則はどのようなものだろう?)
「星は何でできているのだろう?」(物質は何でできているのだろう?)
「どうして、私たちはこの宇宙にいるのだろう?」
「宇宙は、これからどうなっていくのだろう?」

ガリレオ・ガリレオが1609年、初めて空に天体望遠鏡を向けた。
木星の4つの衛星を発見。地球が太陽を回っていてもおかしくないと考えた。
「天動説」から「地動説」への転換。

【宙と粒の出会い】
この世で一番大きいのが宇宙で、一番小さいのが素粒子。
宇宙は10の27乗m、素粒子は10の-35乗m。
宇宙研究と素粒子研究の間には62ケタもの「距離」がある。
まったく関係なさそうに見えるこの2つが、実は密接につながっている。
その背景にあるのが「ビッグバン宇宙論」。
宇宙の歴史をさかのぼると、サイズがどんどん小さくなる。
まさに「素粒子の世界」。
ギリシャ神話に登場する「ウロボロスの蛇」。自分の尾を飲み込んでいる。
古代ギリシャの「世界の完全性」を表すシンボル。
宇宙という頭が、素粒子という尾を飲み込んでいる。
宇宙の果てを追いかけると素粒子があり、
小さなものを追いかけると宇宙がある。

10^27  観測できる宇宙のサイズ
10^23  銀河団
10^20  天の川銀河
10^11  太陽系
10^7   地球
10^3   富士山
10^-1  りんご
10^-10  原子
10^-15  原子核
10^-19  クォーク
10^-35  ひも理論での素粒子

第1章 宇宙は何でできているのか

「天上」と「地上」は「別の世界」ではない。
遠くの星も地球と同じものでできている。
だから物質の根源を探る素粒子研究と、宇宙研究がつながる。
物質が同じなら、支配する物理法則も同じ。
「天上」と「地上」に違いはない。



第5章 暗黒物質、消えた反物質、暗黒エネルギーの謎

暗黒物質は、反応の弱い重い粒子
「Weakly Interacting Massive Particle」だと考えられている。
軽い超対称性粒子が暗黒物質の有力候補のひとつ。

XMASS
液体キセノン1tを丸い機械の中に入れ、
ノイズをシャットアウトするために、水のタンクに吊るします。
液体キセノンの原子核に、暗黒物質がぶつかるのを待つ。
ぶつかると、わずかに光が生じる。その光をキャッチする。

▼宙と粒の出会い
加速器での検出と、観測装置での捕捉。
両方がそろって、データが一致したときに、
暗黒物質の正体が初めて明らかになる。
宇宙から届く暗黒物質と、実験室でつくられた暗黒物質は、
まさに「ウロボロスの蛇」の頭と尻尾だと言える。

あとがき

「こんなことを調べて、何の役に立つんだ?」
いつもこう答えています。
「日本を豊かにするためです」
豊かには、経済的な意味だけでなく、心、精神、文化の豊かさも含んでいます。




1億年、サバ読んでました


この地図に描かれているのは、宇宙ができてから38万年後、
「宇宙の晴れ上がり」直後の宇宙の姿だ。
これまで、宇宙の年齢は137億歳だと言われてきたが、
今回の観測結果から見積もられた年齢は138億歳。
実は、1億年以上も高齢だとわかった。

宇宙望遠鏡「プランク」

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が2009年に打ち上げた宇宙望遠鏡「プランク」が観測した。とらえたのは、ビッグバンの“残り火”と比喩される「宇宙マイクロ波背景放射」だ。

 宇宙マイクロ波背景放射とは

話は、宇宙が誕生したばかりのころまで、さかのぼります。ビッグバン宇宙論によると、宇宙の始まりは超高温・超高密度の火の玉。光で満ち溢れていました。しかし、光は飛び交う電子と衝突してしまい、まっすぐ進むことができません。

ここで、雲を想像してみましょう。雲はなぜ白く見えるのでしょうか?雲の正体は小さな水滴の集まり。光が水滴にぶつかり、まっすぐに進めず乱反射するために、白く不透明に見えるのです。

話を戻すと、ビッグバン直後の光は電子にぶつかりまっすぐ進めないため、雲がかかったように不透明でした。やがて宇宙が膨張して温度が下がると、ばらばらだった素粒子が結びつきます。宇宙が誕生して38万年、原子核と電子が結びついて原子ができると、光がまっすぐに進めるようになりました。宇宙にかかっていた“雲”が晴れて透明に。この瞬間を「宇宙の晴れ上がり」と呼びます。そして、このときの光は宇宙の膨張にともなって波長が引き伸ばされ、「マイクロ波」として現在も地球に届いているのです!この光こそが「宇宙マイクロ波背景放射」です。ちなみに、宇宙マイクロ波背景放射はテレビや携帯電話のノイズとして、毎日のように受信するほど身近な存在なんです。

宇宙マイクロ波背景放射で見た宇宙地図

バーベキューで炭を温めたことはありますか?パチパチと音を立てて燃え上がる炭は、赤く輝いていますよね?物体は温度に応じた色で輝きます。なので光のスペクトル分布を調べることで、温度が分かります。最初の図は、宇宙誕生から38万年後の宇宙にあった「温度のむら」を示しています。赤い色ほど高温で、青い色ほど低温を表しています。その差はわずか数千分の1℃。しかし、そのわずかな温度のむらが、暗黒物質の密度の濃淡を生み、星や銀河ができあがったと考えられています。


【今回分かったこと】
▼温度のむらが不均一
温度の違いを強調すると、図のようになる。宇宙論の標準的なモデルでは、温度のむらの分布はどの方向でも同じはず。しかし、この観測結果によると、画像の白線の上下で、温度のむらに差があるように見える。また右下には「コールドスポット」と呼ばれる温度が低い領域がある。温度のむらがなぜ不均一になったかは、まだわかっていない。

▼暗黒物質、暗黒エネルギーが占める割合


▼膨張速度が遅くなった(ハッブル定数)



(キープ)
プランク衛生はWMAPよりも細かく見分ける能力(角度分解能)が2〜3倍高い。

【データ】
 宇宙年齢:137.96億±5800万歳
 割合:物質(4.81%)暗黒物質(25.7%)暗黒エネルギー(69.3±1.9%)
 ハッブル定数:67.9±1.5 [(km/s)Mpc]
 宇宙の曲率:平坦
 ニュートリノの種類:3種類


【人】杉山直・名古屋大理学研究科教授
   小松英一郎・マックス・プランク宇宙物理学研究所所長


宇宙人に宛てた金色の円盤


the Golden Record

地球から遠く離れ孤独な旅を続ける、宇宙探査機「ボイジャー1号」
木星と土星を調べる当初の役割を終え、新たな夢を託されています。
新たなミッションは、地球以外に住む知的生命体に“手紙”を届けること。
地球の生命や文化を伝える音や画像が収められた「ゴールデンレコード」。
金色の円盤を見つけた“宇宙人”は、何を思うのでしょうか。

地球から最も遠い人工物体「ボイジャー1号」




“人類最大の冒険”と聞いて、何を思い出すでしょうか?
私は迷わず、これを思い出します。
「地球から最も遠い距離に到達した人工物体」
孤独な“独り旅”を続ける、無人探査機「ボイジャー1号」のことを。

宇宙はなぜこんなにうまくできているのか

暗黒物質

スイスの天文学者フリッツ・ツビッキーが、1933年に指摘。
かみのけ座にある銀河団の総質量を計算した。
光の量から計算した質量と、運動速度から計算した質量を比較。
運動速度から計算した質量の方が、400倍も大きかった。
「光を発さず目に見えないけれど、質量のある物質」がある?

アメリカの天文学者ヴェラ・ルービン
銀河の回転速度が、中心から遠く離れても遅くならないことを発見した。
(太陽系は秒速約220kmで回転している)
星や中心部のブラックホール以外にも、重力源がある?
その重力源は、中心から離れるほどたくさんある。

「重力レンズ効果」が暗黒物質の存在を裏付けた。
銀河の光が、手前にある暗黒物質の重力で曲げられて、複数に分かれて見えた。

暗黒物質は光を出さず、他の物質と反応しない。
銀河団と衝突しても、幽霊のように通り抜けてしまう。

→暗黒物質の正体は何か?
→暗黒物質はどうやって出現したのか?


暗黒物質検出装置「XMASS」(岐阜県神岡町)調べる


初期の宇宙には、暗黒物質の密度が濃い場所と薄い場所があった。
濃い場所に強い重力が働き、原子が引き寄せられて星ができあがった。

 ビッグバン理論

ロシアの物理学者アレクサンドル・フリードマンが1922年、
宇宙は膨張していると主張。減速膨張と等速膨張。

ベルギーの物理学者ジョルジュ・ルメートルが1927年、加速膨張を主張。
膨張で空間が広がり、宇宙にある物質の密度が低くなる。
そのため重力の影響が弱まり、膨張速度が上がる可能性を指摘した。

アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルが1929年、
天体観測により宇宙の膨張を確認。
遠くの銀河の光がどれも、赤方偏移を起こしていることを発見した。
銀河が遠ざかる速度が、距離に比例することを発見。
(遠くの星ほど、速い速度で遠ざかる)
地球からの距離だけでなく、ある銀河同士にも当てはまっていた。
宇宙全体が膨らんでいる!

アメリカの物理学者ジョージ・ガモフが1946年、
「宇宙の始まりは超高温・超高密度の火の玉だった」という説を提案。
初期の宇宙では波長の短い電磁波が出され、現在もその「残り火」があると考えた。
宇宙が膨張して温度が下がり、「マイクロ波」まで波長が長くなっていると予想した。
「宇宙マイクロ波背景放射」と呼ばれる。

アメリカのベル電話研究所(現在のベル研究所)の研究員
アーノ・ペンジアスロバート・W・ウィルソンが1964年、偶然宇宙背景放射を観測
アンテナの雑音を減らす研究中に、正体不明の雑音をキャッチした。
2人は1978年、宇宙マイクロ波背景放射の発見者として、ノーベル物理学賞を受賞した。

NASAの天体物理学者ジョン・マザージョージ・スムートは2006年、
宇宙マイクロ波背景放射の観測でノーベル賞を受賞。
宇宙背景放射探査機「COBE」(コービー)(Cosmic Background Explorer)を使い、
1989〜1993年にかけて、マイクロ波を精密に観測した。
「むら」「ゆらぎ」を測定。ビッグバンがより確実になった。


NASAのウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機
WMAP(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe)」が、
2001年に打ち上げられ、「ゆらぎ」をより精密に測定
そのほか、宇宙の年齢が137億年で、宇宙の直径が274億光年以上だと明らかにした。
また、宇宙全体にある暗黒物質の量もわかった。
→小松英一郎・マックス・プランク宇宙物理学研究所所長、IPMU上級科学研究員


ビッグバンで生まれた電磁波のゆらぎが、暗黒物質の濃淡を生み、
銀河が線のようにつながる「フィラメント構造」や、
銀河のない空っぽの部分「ボイド(泡)」を形成し、
「宇宙の大規模構造」を作り上げた。

宇宙の晴れ上がり

ビッグバンから1万分の1秒後で10兆℃。1秒後で100億℃。
光は存在するが、飛び交う電子に反応してぶつかり、外に出られなかった。
光がまっすぐ進めるようになったのは、ビッグバンから約38万年後。
宇宙が膨張して温度が下がり、粒子の速度が落ち着いてきた。
電子は陽子に捕まえられて、電荷が0になり、光が自由に直進して解き放たれた。
空を覆っていた分厚い雲にたとえて「宇宙の晴れ上がり」と呼ぶ。
宇宙背景放射のマイクロ波は、このときの光が引き伸ばされたもの。
なので、ビッグバンから38万年以内の宇宙は、望遠鏡では観測できない。

宙と粒の出会い

ガリレオが400年前に望遠鏡を夜空に向けて以来、
人間は天体からの光を通じて宇宙の謎を解明してきた。
その努力はここで「行き止まり」。
宇宙の起源を探る研究は、ここでおしまいなのでしょうか。
宇宙の晴れ上がりまでの38万年間は、人類の永遠の謎なのでしょうか。

人間は大昔から、天上にある星や太陽の謎を知ろうとする一方で、
地上にある物質の根源について考えてきました。
これ以上は分割できない物質の最小単位を素粒子と呼び、
性質や力の作用を研究しています。
これはまさに、ビッグバン当時の「極小の宇宙」を研究しているのと同じ。

小さな物質を扱う素粒子物理学は、大きな宇宙を相手にする天文学と別々に発展した。
両者を結びつけたのは、ビッグバン理論。
宇宙は昔は小さかったことがわかり、その謎を解くには素粒子の研究が不可欠に。
素粒子の謎をとく上でも、宇宙の研究が欠かせません。

宇宙の大きさは10の27乗m。素粒子の大きさは10の−35乗m。
「極大」と「極小」の研究が、同じ答えを求めて進められている。

顕微鏡で宇宙を探り、望遠鏡で素粒子を探る時代。
加速器は、望遠鏡では見られない宇宙のはじまりを観察する「宇宙を見る顕微鏡」。


地中美術館





無理なダイエットは禁物!絶食1500日!



 1500日以上、何も食べていない生物がいる。三重県鳥羽市の鳥羽水族館にいる、深海生物「ダイオウグソクムシ」だ。周りの心配をよそに、きょうも絶食を続けて水槽を優雅に歩いている。


 ダイオウグソクムシは、世界最大のダンゴムシの仲間。体長は20~40cmで、大きいもので50cm近くにもなります。メキシコ湾やカリブ海の海底約170~2000mに生息しています。複眼は3500個の個眼からできている。海底に沈んだ動物や魚の死骸を食べることから「深海の掃除屋」の異名を持つ。大型の割に小食で、飢餓に強い。エサが少ない環境で、巨大に育つ理由は分かっていない。


 鳥羽水族館では、3匹を飼育している。絶食中のダイオウグソクムシは、2007年9月にメキシコ湾からやってきた。体長29センチ、体重約1kgの雄。「No.1」と呼ばれている。2009年1月2日にアジ1匹を食べて以来、餌に見向きもしなくなった。イカの足やサンマ・・・。いろいろ試したが、口にしなかった。

絶食は5年目に突入!
→なぜ「No.1」と呼ばれているのか
→エサを食べさせる努力

 Youtubeにある動画「1432日目の挑戦」では、えさやりを担当する飼育員の苦労がうかがえます。この動画は、ある日のえさやりの光景を映したもの。最初にサンマを水槽の中に落とします。「あっ!何かが落ちてきた!」てな感じで、のしのしサンマに近づいていく!が・・・食べない。しびれを切らした飼育員が、ダイオウグソクムシを「がしっ」とわしづかみし、口をサンマに無理矢理押し付ける!が・・・食べない。
 まだまだ、めげません。次に取り出したのはブリの切り身。今度は自らブリに近づいていきます。ブリの上に足をかけた!今度こそ!が・・・ブリを踏みつけてそのまま通り過ぎてしまいました。飼育員は水槽の中に視線を落として、ため息とともに頭をうなだれます。残念!

動画「1432日目の挑戦」





<人>飼育研究部・森滝丈也 さん

ILC


ILCとは何か

ILCとはInternational Linear Collider(国際リニアコライダー)の略。全長約30kmの直線状の加速器で、電子と陽電子を衝突させる。宇宙が創られた1兆分の1秒後の「エネルギーのかたまり」を生み出し、ビックバンを再現する。

加速装置に超伝導を用いて、加速性能を向上させる。粒子ビームの太さを細くし、粒子密度を増やして衝突頻度を上げる。

黒スケはどのように鎧をまとったか




 硫化鉄の“鎧”をまとった深海の巻貝「スケーリーフット」。前回のブログで、硫化鉄をまとって黒い色をしているスケーリーフット(黒スケ)だけでなく、硫化鉄を持たずに白い色をしているスケーリーフット(白スケ)もいるという衝撃の事実が明らかになりました。しかし、この2種類は遺伝子的にはまったく同じ。


いったいなぜ黒スケだけが、鎧をまとっているのでしょうか?

変化アサガオ


 アサガオの英名は「The Japanese Morning Glory」。今から1200年ほど前の奈良時代に、中国から下剤の薬草として渡ってきた。突然変異の最初の記録は、江戸時代初期の「写本花壇綱目」(1664年)。青一色だったアサガオの花が、白く変化した。青い色素「アントシアニン」を合成する酵素を作る遺伝子が壊れたことが、原因だと考えられる。その後、「黒白江南花」と呼ばれる絞り咲きのアサガオが現れた。現在はこのような変異を「時雨絞」「雀斑(そばかす)」と呼んでいる。このような突然変異は、動く遺伝子「トランスポゾン」によって生み出されたと考えられている。

ユノハナガニ


【特徴】
 水深420〜1380mの深海の、熱水噴出孔の近くに生息している。和名は「ユノハナガニ」。体の色が白く、温泉に舞う湯の花にちなんで名付けられた。学名は2000年に「Austinograea yunohana」とされたが、2007年に「Gandalfus yunohana」に改められた。眼の退化が進んでいて、目と頭部を繋ぐ組織「眼柄」を動かせない。角膜は皮下に埋もれることなく見えるが、色素はない。雌の方が雄よりも一回り大きい。
→眼柄について調べる

「ユノハナガニの視覚器官は白色で一部が少しだけへこみ、その部分のみ灰色であり、わずかな光受容膜が観察された」(平岡礼鳥・東京海洋大学)


【生態】
 近くに生息するハオリムシを食べている。眼が退化している代わりに、匂いには敏感。魚肉などのえさを入れたかごを置くと、「我先に!」とかごに殺到するらしい。

「飼育しているときには、①大きいユノハナガニは熱源があるほうが生存期間が長い②小さい ユノハナガニは熱源がなくても生存できる③背中や腹部を熱源に当てる」(Miyake et al., 2007)

えさを食べた後に、20〜25℃の熱源を好む行動が観察された。これは温度上昇による消化酵素の活性が関係していると考えられている(池田周平・北里大学)


【生態系の違い】
▼太陽光の生態系


▼化学合成生態系



【なぜ大気圧でも生きていられるのか】



【3匹の見分け方】イラスト付きで
①かぐや 左の爪が割れている。




▼メモ
 熱水噴出孔は、遠赤外線の先に、可視光を含む微弱な光を発している。

黒スケ生け捕り奮闘記


 硫化鉄の鎧を身にまとった黒いスケーリーフット、通称「黒スケ」。今回のブログは、黒スケを捕まえるまでの物語を、実際にしんかい6500に乗って捕まえてきたJAMSTECの研究者、宮崎淳一さんの話を交えながら紹介します。

まずはカーリーチムニーへ

調査する場所は研究者に「聖地」とあがめられるインド洋の「かいれいフィールド」。かいれいフィールドは2000年に、JAMSTECの無人深海探査艇「かいこう」によって見つけられた。これまでに8つの熱水噴出孔が見つけられており、今も活発な熱水活動が続いている。その一つが最初の目的地である熱水噴出孔「カーリーチムニー」だ。


 「今まで見たものの中で、一番大きかった」。

 宮崎さんを、そう驚かせるカーリーチムニーとは、一体どんなものなのか。高さ1m、直径80cmの大きな”煙突”から、黒い煙のようにもくもくとブラックスモーカーが立ち昇る。大きく開いた”口”の内側には、鉄と硫黄からなる鉱物の黄鉄鉱(パイライト)がくっついている。潜水船が発する光を反射させ、「まぶしい」と感じさせるほど周囲に輝きを放っている。神秘的な雰囲気を漂わせているが、残念ながらここに黒スケはいない。「温度が高すぎて黒スケが住めないんです」。

マーカーが見つからない!

さあ、いよいよ、黒スケがいるとされる熱水噴出孔「モンジュチムニー」に向かいます。道標となるのは、前回の航海で設置したマーカー。交通安全で使う蛍光反射材のようなものです。しんかい6500の光を反射して、場所を教えてくれるはず!でした。。。

(c)JAMSTEC
ない。。いくら探しても見つかりません。そうこうしているうちに潜水時間が過ぎていきます。宮崎さんは「かなり焦りました」と苦笑いで振り返る。どうやら、イソギンチャクやエビなどで表面が覆われて、光を反射しなくなっていたようです。それでも冷静に船の位置を観測しながら、過去の論文に書かれている位置を見定めて、モンジュチムニーを発見!いよいよ、黒スケさんとの出会いが近づいて来ました!

分け入っても分け入っても白いエビ

そこに現れたモンジュチムニーの姿は、カーリーチムニーとはまったく違うものでした。エビ!エビ!エビ!チムニー全体にエビが群がり、一面真っ白の銀世界です。(気持ち悪いと感じる人もいるかもしれない。見学会では「ぎゃー!」と悲鳴に近い声が上がっていた?)


この無数のエビの内側に、黒スケさんがいるはずなんです。宮崎さん!どうしましょうか?

「邪魔なので、ホースでどかしましょう」。

というわけで、しんかい6500のアームに付けたホースで、エビを追い払います。えいっ!


おぉっ!エビの中からユノハナガニが顔を出しました。しかし、まだ黒スケの姿は見えません。宮崎さん!どうしましょうか?

「ちょっとじゃだめなんで、思いっきりやってください」。

えいっ!えいっ!



おぉっ!何か黒いものが!もしかしてこれが?

「黒スケが10匹、20匹出てきました。ピカピカ光るのですぐに分かります」。

さっそくホースで吸い込みます。2時間ほどで回収した黒スケさんは約90匹。しかし、その3倍以上のエビを吸い込んだそうです(汗)そして、このとき回収された黒スケさんの生き残りが、見学会でお披露目されました。


触覚がかわいい。

エビの紹介

最後に、「エビがかわいそう!」という声が聞こえてきそうなので、簡単にエビを紹介します。名前は「カイレイツノナシオハラエビ」。今回は邪魔者扱いでしたが、実は結構すごいやつなんです。左右の眼がくっついて、背中に広がってるんです!背中に光の受容物質を持ち、熱水から発せられる微弱な光を感じ取っているそうです。


▼データ
 Monju chimney:Kairei Field・25°19.2186'S・70°02.4219'E・2422m


黒スケ見学会

サンドウィッチ構造で鉄壁の防御


 殻の断面は、このようになっている。
 一番外側に硫化鉄(Fe3S4)の層(30μm・硬い・28.8GPa)
 中間にタンパク質(ケラチン)でできた殻皮層(150μm・柔らかい・8GPa)
 内側に炭酸カルシウムでできたアラゴナイト層(250μm・硬い・98.9GPa)
 硬い層の間に柔らかい層が挟まり、衝撃を逃しやすい構造ををしている。
 人間の歯の硬さ(弾性率)は、エナメル質が84.1GPa、象牙質が14.7GPa。
 硫化鉄のうろこは、歯の象牙質の硬さの2倍となる。

どのように硫化鉄ができるのか?

①スケーリーフット説
 黒スケのうろこは、ケラチンという人間の爪に含まれるタンパク質でできている。
 ケラチンはジスルヒド結合。
 環境とスケーリーフットが持つタンパク質の相互作用で黒くなったのでは。

②外部共生菌説
 うろこの表面にいるバクテリアが作っているのではないか。
 バクテリアの「デルタ」という種は、海水中の硫酸を硫化水素に変える。
 さらに熱水噴出口から吹き出る鉄イオンと反応し、硫化鉄ができるのでは。
 しかし、黒スケにも白スケにも、同じ数のデルタがいた。
 なので、デルタが関わっているのではないのかも。

③環境説
 <黒たまご作戦>
 かごに白スケの殻とうろこ、近くに住むアルビン貝の殻を入れて、
 黒スケの場所に置いてきた。
 しかし2カ月間の航海で、黒スケの場所に行けたのは1回だけ。
 今もインド洋にかごが眠っている(笑)

スケーリーフット




正式名は「ウロコフネタマガイ」。スケーリーフット(うろこのある足)の愛称で呼ばれる。2001年にインド洋の「かいれいフィールド」(水深2450m)で、アメリカの研究チームによって発見された巻貝。硫化鉄でできたうろこをまとっている。硫化鉄を体の構成成分に用いる生物の発見は初めて。硫化鉄を含まない白いものも、2009年に見つかった。

 かいれいフィールドは2000年に、JAMSTECの無人深海探査艇「かいこう」によって発見された熱水噴出孔。チムニーにくっついていることが多い。

 殻の直径は約4cm。硫化鉄のうろこは幅数ミリのものが密集している。うろこの硫化鉄は磁性を帯びていて、強度も優れている。歯の2倍の硬さ。貝殻のふたを持たず、カニやエビに襲われたときに、足を縮めてうろこで防御する。消化管の中に硫黄酸化細菌を共生させて、エネルギーを得ている。貝殻とうろこは黒いが、陸上で飼育するとさびえ褐色に変わる。長期間飼育するためには、海水の溶存酸素の量を減らす必要がある。

【QUELLE】
<3つの研究課題>
  ①スケーリーフットの硫化鉄バイオミネラリゼーションの全容解明
  ②腹足類の発生と共生菌獲得過程の解明
  ③熱水活動とその微生物生態系の多様性の解明と駆動原理の解明

「かいれい熱水域」で黒スケを発見。「ソリティア熱水域」で白スケを発見。現在は遺伝子に区別がない。黒スケが白スケに変わったのか。白スケが黒スケに変わったのか。別の種なのか。

鉄の由来は熱水噴出孔の熱水。
硫黄は海水に硫酸として、熱水には硫化水素として存在している。
→硫黄の供給源は海水?熱水?
  ・硫酸(海水)→硫化水素(微生物)→硫化鉄
  ・硫化水素(熱水)→硫化鉄

<硫化鉄はどうやってできるの?>
 ①黒スケ自身の代謝で分泌される
 ②黒スケ表面の微生物が作っている(外部共生)
 ③熱水のブラックスモーカーが付着している


【質問】
 ▼何から身を守るためのうろこ? 
 ▼磁力と硬さの数字は?
 ▼「世界最先端の船上飼育法」とはどんなもの?

→宮崎淳一さん
 ▼発見したときの概要。いつ、どこで見つけた?
 ▼「バイライト」が輝くとはどんな光景?
 ▼「モンジュ」のチムニーはどんな感じ?「カーリー」との違いは?
 ▼海の荒れ具合は?
 ▼マーカーが発見できなかったときのようすは?焦った?
 ▼「エビが至るところに」どのくらい?
 ▼「1万匹のしがみついていたエビが海底へ」どんな光景?
 ▼なぜエビはしがみつく?