アサガオの英名は「The Japanese Morning Glory」。今から1200年ほど前の奈良時代に、中国から下剤の薬草として渡ってきた。突然変異の最初の記録は、江戸時代初期の「写本花壇綱目」(1664年)。青一色だったアサガオの花が、白く変化した。青い色素「アントシアニン」を合成する酵素を作る遺伝子が壊れたことが、原因だと考えられる。その後、「黒白江南花」と呼ばれる絞り咲きのアサガオが現れた。現在はこのような変異を「時雨絞」「雀斑(そばかす)」と呼んでいる。このような突然変異は、動く遺伝子「トランスポゾン」によって生み出されたと考えられている。
トランスポゾンは、それ自身で動くことができるDNA単位。発現を抑えていたプロモーター領域のメチル化が解除されると、トランスポゾンがゲノムの中を移動。遺伝子の間に入り込み、機能を破壊する。青い花を作る遺伝子が壊されれば、青白絞り花や白い花が現れる。
→「プロモーター領域のメチル化が解除される」とはどういうことか?
岡崎国立共同研究機構の飯田滋さんの研究グループによると、「時雨絞」の変異体では、アントシアニンをつくる遺伝子「DFR-B」の中に、トランスポゾン「Tpn1」が入り込み、遺伝子の機能を破壊していた。このトランスポゾンが再び動き、DFR-Bから飛び出て遺伝子が正常に戻ると、また青い色素を作れるようになり模様が現れる。
花びらが多いものを「牡丹咲き」と呼ぶ。牡丹も不安定な変異で丸咲に戻ることがあるため、トランスポゾンによるものだと考えられた。遺伝子クローニングの結果によると、牡丹変異体には、Tpn1に配列が似たトランスポゾン「Tpn-botan」が見つかった。ほとんどの突然変異体の花の色や模様にかかわる遺伝子に、Tpn1とよく似たトランスポゾンが入っている。江戸後期以降に現れて現在まで保存されている突然変異体の多くは、トランスポゾンによって誘発されたものだと考えられる。トランスポゾン(Tpn1ファミリー)は、ゲノム中に500〜1000コピーもある。その両端には、数百から2500塩基対の共通した配列があった。内部には、アサガオ本来の遺伝子を取り込んでいた。
花の色や形を決める「ABCモデル」
3つのクラスからなる遺伝子の組み合わせによって、花の器官の分化が決まる遺伝学的モデルシロイヌナズナやキンギョソウをモデルとして考えられた。花はがく、花びら、雄しべ、雌しべの4つの器官でできている。whole1:4つのがく
whole2:4枚の花びら
whole3:6本の雄しべ
whole4:雌しべ
クラスA遺伝子:AP1 AP2
クラスB遺伝子:AP3 PI
クラスC遺伝子:AG
クラスA遺伝子の機能が変異で失われると、クラスC遺伝子の機能がwhole1とwhole2に及び、同様にクラスC遺伝子の機能が失われると、クラスA遺伝子の機能がwhole3とwhole4に及ぶ。クラスB遺伝子は、他のクラスの遺伝子の影響は受けない。しかし、クラスB遺伝子が発現するためには、AP3とPIの両方の機能が必要。
〈ホメオティック遺伝子〉
器官の形質を決める遺伝子。変異などで機能が失われると、別の期間の形質にかわる。
花のホメオティック遺伝子は、3つのクラスに分けられる。
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