アウトラインから書く小説再入門


プレミス

プレミス(Premis)とは「プロットとテーマを伝える一つの文」のこと。
プレミスはいわば「小さなアウトライン」。
人物舞台設定メインの葛藤を一つの文で表そう。
人物や舞台設定、テーマ、プロットはみな、プレミスから派生する。

ほとんどのプレミスは「もし〜したら?」という疑問で始まる。
「もし〜したら?」という問いには創作を生むパワーがある。

例えば・・・
「もし私たちの夢が実際に起きていることだったとしたら?」

プレミスに叩き上げると・・・
「反骨のジャーナリスト、クリス・レッドストンは夢で見ていることが現実に起きていると気づき、世界の崩壊を防ぐために戦わねばならなくなる」

すると、疑問が思い浮かぶ。
- どんな夢なのか?
- なぜクリスだけが気づくのか?
- なぜ破滅のときが迫っているのか?

▼プレミスを強固にする質問

  • プロット上の大きな出来事を4つか5つ挙げるとしたら何?
  • それぞれの出来事に最低2点、ひねりを加えたら?
  • ひねりを加えたバージョンは登場人物を何かに駆り立てるか?
  • ひねりを加えたバージョンには、どんな舞台設定の追加が必要か?
  • どの登場人物が主人公になりそうか?
  • インサイティング・イベントに最も影響を受ける人物は誰か?
  • その人物は人生において最低2つの大問題、あるいは不安を抱えているか?
  • それらの問題のうち、最も強い葛藤を生むのはどれか?
  • その問題は他の人物たちにどんな影響を及ぼすか?

ゼネラル・スケッチ

ゼネラル・スケッチ(全体の下書き)では、これまでに出たアイデアを書き出してプロットの空白を見つける。アウトラインの大枠作り。

突拍子もない考えも含めて、思いつきを全部書き出す。ストーリーについて考えたことを並べ、眺めながら、まだ決まっていない部分に印を付ける。同時に多くの「もしも」や「なぜ」を考える。

今、思い浮かぶシーンを挙げてみる。主な出来事を箇条書きににてみる。決まっていない部分をどうするかは後回し。ひたすら空想する。書けたものを時間を置いて見直し、漠然としている部分にチェックを入れる。疑問を掘り下げると、また新たな疑問が生まれる。

意識を開放する。脇道に逸れたり、細い隙間や隅っこまで探しまわるように夢想する。探検ヘルメットを被り、サファリに出かけるように。ひらめいてはっとするとき、胸が詰まる感じが本当にしたら、そのアイデアは使えるかもしれない。ストーリーや人物を考えているときに、胸が引き裂かれそうに感じたり、喜びで胸がいっぱいになったりするときは、読者にも似た体験をしてもらえる可能性が高い。

アウトラインが形になり始めたら「動機、欲望、ゴール、葛藤、テーマ」を意識する。ときどき一歩引いた目線で評価し、早いうちにすべての要素が揃っているかを確認する。


▼動機、欲望、ゴール
読者は登場人物の行動を見て、人物像を理解しようとする。それよりも人物が「したいこと」に興味を引かれる。善意や悪意をストレートに行動に移せないときがあるが、こうしたいなぁという気持ちは、その人にとっての真実。人物の人となりは行動に表れる。だがそれ以上に、行動の意図(動機)に表れる。登場人物について、したい行動と動機のリストを作ろう。

率直な人物を描くには、動機と行動を一致させる。
複雑な内面を持つ人物を描くには、動機と行動の不一致を垣間見せる。

フィクションの中核にあるのは主人公の欲望。主人公に強烈に何かを求めさせなければならない。欲望がエネルギーを生み、主人公は様々な障害を乗り越える。人物が何かを求めて何かにぶつからない限り葛藤は起きない。

欲望の対象は、物、人、心の状態、勝利、脱出、場所など。人物のゴールはプレミスによってまちまちだが、燃えるような消し難い欲望が必要。


▼葛藤
葛藤や対立はどのように作るのか。人物の動機、欲望、ゴールを設定し、人物とゴールの間に障害物を置くだけ。小説に力を与えるのは葛藤であり、葛藤に力を与えるのは人物のフラストレーションだ。主人公が勝利や幸福に王手をかけたときに、近道を与えずに遠回りさせる。

どんなストーリーも人間関係が中心だから、人物どうしを衝突させれば面白い葛藤が作れる。主人公が主に衝突するのはメインの敵対者。そのほかの脇役にも小さな衝突をさせる。

予想外の状況を与えてもいいだろう。予想外の状況や、価値観が合わない人との関係などに人物を引き込むことができるだろう。例えば、内気な主人公が人前で演説をすることになったらどうなるか? プレッシャーに負けるか、立ち上がるか。

対外的な葛藤や対立と同様に、心のなかの葛藤も大切。人物の内面と外面の両方を描けたら、深く豊かな人物表現ができる。障害に対する身体的・物理的な反応と、出来事に対する心理的・感情的な反応の両方を描こう。

強弱のバランスが大切。ずっと緊張させ続けるのではなく、たまには休ませて次の策を練る時間を与えよう。


▼テーマ
私たちは問題を投げかける刺激的な小説が好き。娯楽のために読みながら、学び、成長し、視野を広げたいと望んでいる。そんな望みを満たせるのは、真実を深く追求した作品だけ。そんな作品を描くには、作者自身が心から情熱を傾ける信念や真実を吐露しなくてはいけない。創作における最強の武器は、世界をあまねく見渡す独自の視点だ。

物語にメッセージを込めることは、作者の信条や持論を直接書くことではない。作者が強く信じるテーマでもがく人物を多面的に描くこと。そして、読者が厳しい問いを自分に投げかけたくなるようなプロットを作ることだ。小説家の仕事は答えを提示することではなく、疑問を投げかけることだ。

人物の行動やリアクションから自然にテーマが浮き上がる。テーマを強く打ち出すには、人物を強く前進させること。インサイティング・イベントからクライマックスにかけての人物の変化が、作品のテーマと結びつく。ただし、変化は人物の内面から発生させること。
  • 主人公の心の葛藤は?
  • ストーリー上の出来事で、主人公のどんな考え方が変化する?
  • 主人公の考え方は、どのように、なぜ変わる?

キャラクター・スケッチ

▼背景(バックストーリー)
太陽の光に輝く氷山はほんの一角で、それを支えるのは水面下にある8分の7。この隠れた部分がバックストーリーだ。本編の裏にあるストーリー。本編が始まる前の物語であり、人物の決断や行動を生み出す源なので、物語の進行や整合性づくりに欠かせない。目的は本編の方向をつかむため。バックストーリーを見れば、その人物の動機が分かる。

バックストーリーはどこから考え始めるか? 本編が動き出すところ、インサイティング・イベントを起点に考える。インサイティング・イベントでは、人物を取り巻く世界が後戻りをできないほど変わる。ドミノで言うなら最初のピースを倒す瞬間に当たる。人物の過去を作るとき、この鍵の部分から逆算していくと良いアイデアが浮かぶ。

  • インサイティング・イベントに遭遇する原因になった過去の出来事は?
  • インサイティング・イベントに人物がそんなに反応するのは、過去に何があったからなのか?
まずは大まかな背景を考える。それを起点に人物の動機と経歴を考える。
大枠が書けたら、出生地と生年月日を決め、その人物が影響を受けた人たちとの関係を考える。両親は誰で、どんなバックストーリーを持っているか? 主人公が子供時代に受けた影響に絞って考える。主人公と兄弟姉妹、そのほかの主要人物との関係も探る。人物の動機の真相が垣間見えそうな情報に注目する。

本当に探すべきものは、人物の人生を左右する忘れられない出来事。ひとつバックストーリーを考えるたびに、必ずひとつ、人物への見方を変える宝のようなものを見つける。深い洞察から得た情報は強い土台を作る。そのかけらがちらりと本編に見えれば、ストーリーが一層輝く。

バックストーリーは適度に。軽く流さず、負荷をかけ過ぎずという按配が大事。バックストーリーが関与する時間・場所と、そうでないものがある。丁寧に作った背景を読者に披露したい気持ちは山々だが、冷静に。読者が知りたいのは、次に何が起きるかだ。バックストーリーは第1章の直前の基本的な出来事を知らせるためだけに存在する。だらだら描くと読者の気を逸らしてしまう。水面下にある氷山の存在はちらりと知らせるだけにして、物語を前進させよう。


▼インサイティング・イベントとは
「この先、主人公はこれまでと同じように歩き続けられるか?
 もし答えがイエスなら、まだ最初の戸口まで来ていない証拠だ」

インサイティング・イベントが起こるのは、冒頭から4分の1ほど進んだあたりが目安。それまでに人物紹介や問題点、舞台設定をしっかりしておくと、読者はインサイティング・イベントで人物に共感し、ことの重大さを理解してくれる。それぞれが人生を歩み、それぞれの道がインサイティング・イベントで交差する。


▼人物インタビュー
人間関係や価値観、秘密について質問しながら考える。時間がかかるので、主観をとる人物と敵対者などの主要人物のみで十分。

人物の性格を9つのタイプで診断する「エニアグラム」は人物の長所と短所のバランスの確認に使える。


舞台設定

「環境を通して人となりを描く」
周りの風景、我が家、わが町に対する反応を描けば、その人物の姿が分かる。その場所が嫌いか? もし嫌いなら、なぜそこに住み続けているのか? そこで育ったのか? もしそうなら、どんな影響を受けたのか? 場所に対するリアクションで舞台設定を伝えながら、人物のことも明らかにできる。

舞台設定で、読者に感じてもらいたいムードを伝えることもできる。

舞台設定は、プロットを効果的に展開できるように意図的に選ぶ。面白い舞台設定は細部まで想像して活用し、読者の興味を引きつける。たくさんの場所を浅く描くより、魅力的な舞台を一つに絞る方が読み応えがある。メインの舞台以外の場所はできるだけ統合する。舞台の数を減らせば、伏線を張るチャンスが増える。

「ファンタジー世界構築クエスチョン」(パトリシア・C・リーデ)


  • 風景は?
  • この世界で社会はどうなっている?
  • テクノロジーはどのくらい発達している?
  • この世界の自然の法則は?
  • この世界にはどんな人々がいる?
  • この世界の歴史は?


詳細アウトライン

詳細アウトラインでプロット作りが本格的に始動する。できるだけ詳しく、ストーリーの洋書を並べていく。ポイントは後でアイデアが追加できる余地を残しつつ、各シーン内の大きな出来事をしっかりと立てること。基本的にセリフや地の文、心の声は書かない。シーンに番号を付ける。

「自分が一番読みたいと思うストーリーを想像してごらん。それを書けばいい」
自分にとって完璧な小説とは? 自分が好きな小説や映画の、どんな部分に心を引かれるのか。

▼誰の主観で書くのか?
主観(Point of View)は物語の決め手。どのシーンを書き、どのシーンを描かないかを左右する。誰の主観を選ぶかで、閉じる扉、開く扉が分かれる。

主観をとる人物の数を適切に。主観は少数に絞るほど効果的。主観を分散させればより多くのディテールが描けるが、メインの主観の力を弱めかねない。主観をとる人物は心情が表現されやすい。感情的に激しく反応しそうな人物の主観にとるとどうなるか? 複数の主観を使うと、読者は複数の人物の視点からものごとを見ることができる。主観をとる人物を増やすほど、読者の関心や愛着が分散する。いろいろな人物の主観をとると、ストーリーは寸断されて焦点がぼやけてしまう。

▼欠かせない3つの要素
人間関係・アクション・ユーモア。3つの要素の配分は作品によって異なるが、好きなどの小説もどれかが突出しているはずだ。

ユーモア。ユーモアは読者を楽しませ、登場人物に愛着を感じさせる。シリアスな場面の息抜きになり、暗くなり過ぎないようにバランスを保つ。「悲劇の極みの中でも、笑いを誘うものは常にある」

アクション。名作には必ず葛藤や対立が描かれている。葛藤や対立を描くにはアクションが必要。

人間関係。ストーリーとは人間の体験を表すもの。そして、その体験の根本にあるのが人間同士のやりとりなら、小説の核心は人間関係にあるはずだ。恋愛関係や家族関係、友人関係など。あらゆるストーリーの根底には、人間関係、あるいは人間関係の薄さへの嘆きがある。異なる人間関係を対比しながら心のつながりと断絶を描き、悲しみも勝利の喜びも際だたせる。

▼ドミノ式展開
ストーリーのシーンはドミノのピース。読者に読み進んでもらうには、一つのシーンが次のシーンに直接、影響を与えなくてはいけない。次のシーンに影響しないなら、削ってもプロットが成立するなら、そのシーンを削るか書き直そう。プロットの空白が見つかったら、順序をさかのぼって考える。


清書版アウトライン

「詳細アウトライン」は執筆時に読み返すのが大変なので、重要事項をさっと参照できるように新たに作るものが「清書版アウトライン」。詳細アウトラインは紙にペンで、清書版アウトラインはパソコンに入力しています。

使えない部分は削除し、使う部分は磨く。削除できるシーンや一つにまとめられるシーンはないか。作りやパワーが弱いシーンに目星を付ける。人物や舞台設定も同様に。スリム化を意識する一方で、ストーリーが求める語り方を大切にすることも忘れずに。

▼章の区切りを考える
シーンをどこで区切るかは重要な課題。読者に強い好奇心を抱かせる終わり方が必要。どんな章やシーンにも葛藤や緊張を加え、「次はどうなるの?」と思わせるにはどうしたらよいのか? ポイントは読者に疑問を抱かせること。

  • 対立の予感を匂わせる
  • 明かされない秘密
  • 大きな決断や誓い
  • ショッキングな出来事の知らせ
  • 感情の高まり
  • ストーリーを逆転させる事実の発覚
  • 新しいひらめき
  • 答えが示されない問い
  • 謎めいたセリフ
  • 何かの前兆を予感させるメタファー
  • ターニングポイント


ストラクチャーから書く小説再入門

掴み(フック)

掴み(フック)の形は様々だが、根底にあるのは「疑問」。読者が「知りたい」と思えば、掴みは成功。

▼掴みの要素
1. 疑問を感じさせる
2. 人物を登場させる
3. 舞台設定を伝える
4. 何かを明確に言い切る
5. 作品のトーンを感じさせる

読者の興味は人物にある。それも、目の前の出来事に反応している人物が良い。
考えるべき要素は3つ。登場人物とアクション、舞台設定。
「第二次世界大戦が始まった」ではなく「ヒトラー。侵攻。ポーランド」。

▼登場人物
読者がなぜ読み続けるかというと、人物のことが知りたいから。

▼アクション
幕が開くと同時に、人物は懸命に何かをしているべき。その人ならではの姿を描く。後にはっきりと想起でき、なおかつ人柄を表すアクションを。

どんなシチュエーションでも人物を動かす。その行動が次の展開を引き起こし、ドミノ式に連鎖していく。

▼舞台設定

-
次々と連鎖反応が起き始めるタイミングはどこ?そのシーンこそオープニングにぴったり。前置きは削除する。ストーリーは成立してる?人物紹介と性格描写はある?核心にズバリと切り込むエキサイティングなオープニングになった?

物語全体を通して答えを求めていく問いを「Dramatic Question」と呼びます。

▼最初の章の要素
- 強烈な「掴み(フック)」を仕掛ける
- 登場人物に読者が関心を持つ理由を与える
- 作品全体のトーンを打ち出す
- 舞台設定、葛藤、テーマを打ち出す

第1幕

本の最初の25%で人物や舞台設定、危機を紹介する。ストーリーに出てくるものは全て登場させる。第1幕で読者に見せたものだけで、残りが展開できるようにする。

読者に人物を知ってもらうこと。彼らは誰? 性格は? ものの考え方や価値観は? 人物の人柄は場面で表す。まず読者に人物を知ってもらってから、プロットを発展させる。

人物紹介と共に、舞台設定と「危機に晒されている大切なもの」を伝える。

▼登場人物
作家は役者でもある。人物の視点で書くときは、その人になりきらなくてはいけない。その人物を愛せなければ、理解もできない。心を深く探って、行動の理由を考える。

▼危機
人物の登場と同時に、その人物の大切なものも紹介する。その人物が必死で守りたいもの。後に大切なものを巡って戦うことになるので、大切なものを脅かす存在も紹介する。つまり、「敵」も第1幕で紹介する。あるいは、少なくとも存在を匂わせておく。

「危機に晒されている大切なもの」を伝えるだけでなく、描写を膨らませる。言葉で表現したり、アクションの描写で表現したり。平穏な日常生活の描写に「失いたくない大切なもの」を織り交ぜる。

家族や仕事、名誉などに対する人物の思い入れを描写すればするほど、後でテンションを高めることができる。「思い入れ」が描写できるのは第1幕だけ。

▼舞台設定
物語が展開する時間や場所を知ってもらう。設定次第で物語に統一感と深みが増す。
作品の輪郭を示し、プロットの枠になる。

プロットが要求する時間と場所を考える。次に、できるだけ読者に違和感を与えない範囲で、読みごたえのある設定にできないかを考える。場所の数を絞れば、書き手も読者も負担が軽くなり、内容を深めることに集中できる。

できるだけ早く主人公の身近な環境を描く。台所や寝室、オフィスなどの風景から、人物の内面が見えてくる。人物の登場に合わせて周囲の様子を簡潔に描き、重要なディテールを後から少しずつ紹介する。その人物は几帳面か、だらしがないか。裕福か貧乏か。興味の対象や趣味を何かのアイテムで表現できないか。生い立ちや将来の夢を想像させるような物が出せないか。

五感すべてに訴える描写を心がける。

どんな設定でも、読者にとって目新しい場所だと思って描く。想像できる範囲は読者によって異なる。

プロットポイント

その後の流れを激変させる転機に当たるシーンを「プロットポイント」と呼ぶ。大きな出来事や事件が起きて、物語の流れが変わるところ。騒動を巻き起こし、新たな対立を引き起こし、登場人物を動かすのが転機であり、プロットポイント。

25%地点のプロットポイントが他と大きく違うのは、その時から状況が一変すること。この先、人物は後戻りができません。状況説明が終わると、人物は行動に駆り立てられる。

プロットポイントで主人公に大きな刺激が与えられると、主人公は強く反応する。ここで第1幕が終わり、主人公の反応を皮切りに第2幕が始まる。プロットポイントは第1幕の山場。

第2幕(前半)

プロットポイント1(PP1)で大きな転機に遭遇した人物たちは、強く反応する。その反応が次の反応を引き起こし、第2幕前半が進んでいく。PP1で人物はガツンと打たれる。平穏な日々はもうおしまい。ガツンと打たれて、何かせざるを得なくなる。小説の中で最初の大きな転機を見てみると、その後の展開は「人物たちがどう反応するか」が鍵になっていく。

主人公はミッドポイントに至るまで、次々と反応を続ける。自ら行動を起こすこともあるが、あくまでも転機に対する反応としての行動だ。「この先どうなるのだろうか」と考えながら、体勢を立て直そうとする状態。

PP1での転機は状況を一変させる。もはや人物は後戻りできず、リアクションに迫られる。人物のリアクションに対して敵対者も反応を返し、それを受け入れてまた人物も反応する。

▼ミッドポイント
第2幕のど真ん中で、すごいことを起こそう。無限に続く砂漠のような中盤を書き始め、真ん中まで到着したら大転換。ストーリーを「吊るす」ための中心点こそ、第2の大きなプロットポイント「ミッドポイント」。第2幕の分け目になる。

ミッドポイントの役割は、中盤をぐっと引き締めること。それまで描いてきた人物のリアクションを締めくくり、人物の行動をスタートさせて第3幕に導く。2度めの大転機。ストーリーの流れが変わり、人物の反応もストーリーを変えていく。しかし、もう人物は受け身ではない。自らの意志で行動し、敵対勢力に対抗します。

ドミノ倒しに例えると、ミッドポイントは曲がり角。第2幕の前半のリアクションの連鎖がくるっと向きを変える、大きな局面。論理的な流に沿いつつ、全く新しい方向へ物語を展開しなければいけない。ミッドポイントで、人物は状況に反応するだけの状態から脱却する。精神的にも肉体的にも、サバイバルするために守りから攻めに転じることが必要。

第2幕(後半)

ミッドポイントを過ぎたら物語はヒートアップする。主人公は積極的に行動し始め、プロットの運びは活発になる。この裏にあるのは主人公が得た「気づき」であることが多いだろう。その気づきが何なのか、まだ主人公は言葉で表せないかもしれない。また、内面の弱さや欠点、問題も残っているだろう。しかし、「これではいけない、何かせねば」と思い始める。ミッドポイントの転機以降、徐々に生まれ変わろうとする。主人公は苦しい状況でも前向きに行動する。

第2幕前半の主人公は、身に振りかかる出来事に反応するばかりだったかもしれません。ミッドポイント以降の第2幕後半では、人物に内面の強さが生まれる。自力で運命を切り開くのは困難でも、その困難に対して何かしようと試みる。人物が成長しようとすることで物語が動く。人物に厳しい現実をぶつけ、苦しい思いを経て立ち上がる姿を描く。

この部分を使って主人公を鍛え抜き、終盤のクライマックスへと運んでいく。失敗から学び、また問題に直面させ、敵(主人公自身が内面に抱える敵も含む)に立ち向かう準備をさせる。内面も含めて、主人公が最大の危機に直面するのは第3幕。第2幕の後半は準備期間と捉えて、後に人物が直視しなければいけない欠点を伏線として描く。

第3幕

第3幕も劇的な事件で始まる。前との違いは、決してパワーダウンさせないこと。人物も、そして読者も一緒に、激しい流に突入する。全ての糸が絡み合い、結びへと向かう。第3幕は本の最後の4分の1にあたる。全体の75%地点かそれより少し前から始まり、終わりまで続く。

第3幕の課題は山ほどある。全ての登場人物(重要な物も含む)を集結させること。サブプロットに落ちをつけること。伏線の展開を明かすこと。主人公と敵対者の両方に、最終計画を実行させること。主人公に内面の弱さを直視させ、最終バトルで成長、変化を遂げさせること。

▼プロットポイント2(PP2)
第3幕も、大きな変化を促すプロットポイントで始まる。主人公をさらに強く前進させ、クライマックスへと向かわせます。以降のドミノは直線コース。まっしぐらに主人公と敵対者の衝突へと進む。PP2で人物はどん底に落ちる。望みが叶う一歩寸前でだめになり、これまで以上に落ち込む。そこから再び戦う力を呼び起こし、クライマックスへ。人物はPP2で燃え尽きて灰になった状態から、再起しなければいけない。

第3幕では自分の弱さや過去の過ちを直視せざるを得なくなります。この先の勝負に勝つには、真実を認めて打ちのめされ、這い上がって新たな知恵や力を得なくてはいけない。

ストーリーで大切なのは人物の変化だ。書き手の仕事は人物に変化をもたらす旅をさせること。多くの場合、それは成長の旅だろう。序盤にゴールに手が届かなかったのは、本人に何らかの思い込みがあったからではないだろうか。その思い込みや価値観を塗り替えるために、物語で旅をさせるのだ。ただの旅行ではない。その人物が新しい自分になるために、必ず通らなくてはならない局面に連れて行くのだ。

生か死かの究極の選択が必要。努力の甲斐なく、愛も希望も壊れていく。なぜなら、まだ人物が心に蓋をしているから。恐れや疑念など、これまで見ないようにしてきたものがあっただろう。最終決戦でそれを乗り越えなければ、未来には進めない。

▼クライマックス
完璧なエンディングには、必然性と意外性の両方が必要。理屈抜きで納得できて、予想外。必然かつ意外なエンディングを書くには、「伏線」と「複雑化」の二つが必要。つまり、パズルのピースをあらかじめ見せておくことと、多くのピースを見せて複雑に見せかけること。小説の終盤は、パズルで言うなら全体の絵がほぼ見えている状態。残り、あと10個ほどをはめ込んだら完成といったところにいる。

ほぼ全ての物語にあるのは主人公の「気づき」。クライマックス近くで何かを悟る。そして、それまでの考え方を捨て去り、敵にぶつかっていく。自分の心の葛藤にも、敵との対立にも、ここで決着をつけようとする。クライマックスの終わりに来る「クライマックスの瞬間」は、ラストから2番めのシーン。それが終わったら、あとはラストシーンのみ。語るべきことはクライマックスで出し尽くす。ラストシーンは情緒的な余韻を見せるだけの存在です。

解決

解決は、クライマックス直後から最後までの部分。勝負が付けば物語は終わるが、そこで小説もぷつんと終わってしまうと、読者は物足りなさを感じる。クライマックスでは感情が激しく刺激されるので、ほっとできるくだりが必要。人物が変化を遂げた後の姿を、少しだけ描く。

解決はできるだけ短いほうが良い

音楽と同じように、盛り上がった後は徐々に落ち着かせてエンディングに持っていく。読者が物語を堪能した後、ほっとしてゆっくり現実に戻れると良い。

まだ物語が終わっていない雰囲気も出す。読者が本を閉じた後も、生き残った主要人物たちの人生は続く。



冥王星



米国航宇宙局(NASA)の無人探査機「ニューホライズンズ」が、日本時間の7月14日午後8時49分、9年半の長旅を経て、冥王星に最接近し通過した。接近距離は1万2500キロ。取得データはこれから約16カ月かけて地球へ送られる。探査機は最接近前後の9日間で380種類以上の観測をしており、来秋にかけて結果を送ってくる。
ニューホライズンズの観測データの受信には16か月かかる見通しで、その分析と研究には何年も要する。また、ニューホライズンズの探査目標は冥王星や衛星カロンだけではない。太陽系形成のなぞを紐解く数千個もの天体が存在するカイパーベルトの中を飛行して、今後も探査を続行する。
公開映像で、星の表面には、おそらくメタン、窒素、一酸化炭素などの霜から成るであろう大きなハート形の模様が目立っている。NASAはこの領域を、冥王星の発見者トンボーにちなんで「トンボー領域」と命名。そこには、氷でできていると思われる富士山クラスの高さの山がいくつも確認できる。そばに凍りついた平原が広がり、亀裂のようなものが走っている様子が見られます。この平原は「スプートニク平原」と呼ばれている。わずかながら窒素を主成分とする大気があることも確認されている。



最接近前の7月13日に地表から約77万kmの距離から撮影された冥王星


星の表面には、おそらくメタン、窒素、一酸化炭素などの霜から成るであろう大きなハート形の模様が目立っている。NASAはこの領域を、冥王星の発見者トンボーにちなんで「トンボー領域」と命名した。

冥王星などでは地質活動が続いている可能性が浮上している。ハート形の地形の一部などに、隕石が衝突してできるクレーターがなく、1億年以内に生まれたとみられる比較的「新しい」地形が見つかったからだ。地質活動は太古に停止したとみられていたが、内部で続いている可能性がある。

フライバイ時に撮影された冥王星(富士山クラスの3500m級の氷山





最接近1時間半前に、冥王星上空約7万7000kmから「ハート模様」の南端付近をとらえたもの。全球の1パーセントにあたる領域で、3500m級の山々が存在している様子がはっきりとわかる。(カラーバーの50マイルは約80km)

これらの山々は水の氷でできているとみられている。どうやら1億年以内に形成されたもののようで、約46億年という太陽系の歴史の中では極めて若いものといえる。冥王星では今でも地質学的な活動が起こっている可能性を示唆する観測結果だ。木星や土星の周りを回る凍った衛星とは異なり、冥王星ははるかに大きな天体との相互作用で熱を生み出すということがないので、山々を作っているのは何か別のプロセスなのだろう。

活動の原動力になっている熱源はわかっていない。探査チームは、天体内部で放射性元素が自然崩壊して出す熱の可能性が高いとみている。

▼3500m級の氷山
→どうやってできたと考えられる?
→水の氷でできている?
→1億年以内にできた?
→今でも地質学的な活動が起こっている可能性がある

→今でも地質学的な活動が起こっている理由として考えられることは?
 - 大きな天体の潮汐力で熱を生み出している?
 - 天体内部で放射性元素が自然崩壊して出す熱の可能性が高い?

冥王星のメタンに関する分光観測データ



左の画像中、破線で囲んだ領域におけるメタンの存在量を示したグラフ。北極領域と赤道領域でメタンの氷の量が大きく異なっている。

冥王星の氷原(クレーターのない氷の平原



冥王星から約7万7000kmの距離から撮影。クレーターのない広大な氷の平原がとらえられた。同地形の年齢は1億歳以下と若く、いまでも地質学的なプロセスが進んでいるのかもしれない

▼クレーターのない氷の平原。地形の年齢は1億歳以下と若い
 →この平原はどうやってできた?
 →今でも地質学的なプロセスが進んでいる可能性がある

氷原は、すっかり冥王星のシンボルとなった「ハート模様」(冥王星発見者クライド・トンボーにちなんで非公式に「トンボー領域」と名付けられている)中、南の領域に位置している。「スプートニク平原」(これも非公式)と名付けられたこの地形がどのようにできたのか、説明は簡単にできるものではなく、最接近前の予想を上回る発見だという。

連続する不規則な形は幅およそ20kmほどで、溝のように見える地形に囲まれ区切られている。溝の一部には暗い物質が存在し、溝に沿って周囲の地形よりも盛り上がった丘のような地形が集まっているところもある。さらに、表面に小さなくぼみができている領域も見られ、氷が昇華した際にできた可能性がある氷原には同じ方向に揃った長さ数kmの暗い筋も見つかっており、氷原に吹く風が作ったものかもしれない

▼溝の一部には暗い物質が
 →これは何?

▼表面に小さな窪み
 →氷が昇華したときにできた可能性がある

▼同じ方向にそろった長さ数kmの暗い筋
 →風が吹いている可能性がある


谷に囲まれた数十キロほどの地形が集まり亀の甲のような模様で分布している。水たまりの泥が乾くときにひびが入るように、表面の物質が固まってできたか、冥王星内部に何らかの熱源があり、氷状の窒素やメタンなどが暖められて、泡が浮かび上がるようにしてできたとみられる表面には、同じ方向に延びる複数の黒っぽい筋も見つかり、風が吹いている可能性があるという。

▼亀の甲のような模様
 - なぜこのような模様ができたのか?
 →冥王星内部に何らかの熱源があり、氷状の窒素やメタンなどが暖められて、
  泡が浮かび上がるようにしてできた可能性がある

トンボー領域の西半分に見られる一酸化炭素の分布


可視光・紫外線撮像装置「Ralph」による観測から、同領域に一酸化炭素の氷の存在が明らかにされた。一酸化炭素の量は中心にいくほど増えているようだ。

▼一酸化炭素の氷が存在する

窒素イオンで占められている太陽風内の空洞、プラズマの尾などを示した図


冥王星周囲太陽風観測装置「SWAP」は最接近から1時間半後に太陽風内の空洞を観測し、冥王星の背後(太陽の反対方向)に10万km前後にわたって長く伸びる、窒素イオンで占められたプラズマの尾を検出した。大気が太陽風によってはぎとられ、宇宙空間へと放出されているのだろう。

今後、紫外線撮像装置「Alice」と電波実験装置「Rex」による大気計測データから、冥王星の大気喪失の割合が解明されるだろう。冥王星の大気と表面の進化の謎が明らかにされたり、太陽風との相互作用の範囲が決定できたりすると期待される。


「ノルゲイ山地」の北西約110kmに見られる山々



探査機「ニューホライズンズ」の望遠撮像装置「LORRI」が7月14日に冥王星上空7万7000kmから撮影したもので、差し渡し約1kmほどのものを見分けられる解像度だ。冥王星の全体像に見られるハート型の「トンボー領域」の南西部(左下付近)がとらえられており、明るい氷原と暗くクレーターの多い大地の境界部にそびえる山々が見える。

すでに公開された画像からは3500m級の氷山が連なる「ノルゲイ山地」が発見されていたが、今回新たに発見された氷山の高さは1000mから1500mほどと低い。

「東側に位置する、若い地形である明るい氷原と、暗くクレーターの多い西側の地形には、明らかな違いがあります。2つの間で複雑な相互作用が起こっているのでしょうが、詳しいことはまだわかりません」(NASAエイムズ研究センター Jeff Mooreさん)。

右側の「スプートニク平原」は形成から1億年以下と地質学的に比較的若いと考えられ、暗い領域はおそらく数十億年前の地形とみられている。Mooreさんはとくに、明るい堆積物のようなものが古いクレーターを満たしているように見える点(たとえば、中央のやや左下に見える明るい円形地形)に注目している


スプートニク平原周辺に見られる地形(窒素の氷河が流れている



ハート模様のトンボー領域内の西(ハートの左半分)に位置するスプートニク平原に見られる様々な地形が詳細にとらえられている。興味深いのは広範囲を覆う窒素の氷河(氷床)の流れた跡だ。地球の氷河と同様に、今も流れているかもしれない

クトゥルフ領域とスプートニク平原周辺に見られる地形



スプートニク平原は窒素だけでなく一酸化炭素やメタンの氷も豊富なようだ。トンボー領域の一番南には古いクレーターの多いクトゥルフ領域があり、暗いこの領域に新しい氷が押し寄せているように見える。中央やや下には氷で埋められたらしいクレーターもある。

冥王星の擬似カラー画像


「LORRI」による高解像度データと「Ralph」によるカラーデータを合成して作成。色を強調した画像からは、表面の様子や組成の違いがわかる。赤道上に最も暗い地形があり、中緯度地方は中間色、北極領域は氷が広がっていて明るく見える。おそらく、季節の移り変わりと共に氷が赤道から極へと運ばれるためだろう。

冥王星の右下に沿うように北東から南西へと伸びる青白っぽい地形には、スプートニク領域から氷が運ばれているのかもしれない。

冥王星のシルエットと大気のリング(大気のもや


冥王星最接近から7時間後に探査機「ニューホライズンズ」は冥王星を振り返り、冥王星の周囲の大気を通り抜けた太陽光が作り出したリングをとらえた。

画像の初期分析から、大気中の高度約80kmと約50kmに2層の「靄(もや)」が存在していることがわかった。靄は、冥王星を赤っぽく見せている炭化水素化合物を作る上で鍵となる要素だという。

▼2層のもや(高度約80kmと約50km)
 →もやはどうやって形成された?


モデル計算からは、太陽の紫外線がメタンを分解すると靄が形成されることが示唆されている。メタンの分解から冥王星の大気中に見つかっているエチレンやアセチレンなどの形成が引き起こされ、大気中でより低温の層へと落ちていくと靄ができるのだ。紫外線はさらに靄を赤茶色のソリンに変化させ、これが冥王星の色として見える

これまでの計算では、冥王星の上空30km以上は温度が高く、靄はできないとされてきた。冥王星で何が起こっているかを理解するには、別の新しい考え方が必要なのだろう。