アウトラインから書く小説再入門


プレミス

プレミス(Premis)とは「プロットとテーマを伝える一つの文」のこと。
プレミスはいわば「小さなアウトライン」。
人物舞台設定メインの葛藤を一つの文で表そう。
人物や舞台設定、テーマ、プロットはみな、プレミスから派生する。

ほとんどのプレミスは「もし〜したら?」という疑問で始まる。
「もし〜したら?」という問いには創作を生むパワーがある。

例えば・・・
「もし私たちの夢が実際に起きていることだったとしたら?」

プレミスに叩き上げると・・・
「反骨のジャーナリスト、クリス・レッドストンは夢で見ていることが現実に起きていると気づき、世界の崩壊を防ぐために戦わねばならなくなる」

すると、疑問が思い浮かぶ。
- どんな夢なのか?
- なぜクリスだけが気づくのか?
- なぜ破滅のときが迫っているのか?

▼プレミスを強固にする質問

  • プロット上の大きな出来事を4つか5つ挙げるとしたら何?
  • それぞれの出来事に最低2点、ひねりを加えたら?
  • ひねりを加えたバージョンは登場人物を何かに駆り立てるか?
  • ひねりを加えたバージョンには、どんな舞台設定の追加が必要か?
  • どの登場人物が主人公になりそうか?
  • インサイティング・イベントに最も影響を受ける人物は誰か?
  • その人物は人生において最低2つの大問題、あるいは不安を抱えているか?
  • それらの問題のうち、最も強い葛藤を生むのはどれか?
  • その問題は他の人物たちにどんな影響を及ぼすか?

ゼネラル・スケッチ

ゼネラル・スケッチ(全体の下書き)では、これまでに出たアイデアを書き出してプロットの空白を見つける。アウトラインの大枠作り。

突拍子もない考えも含めて、思いつきを全部書き出す。ストーリーについて考えたことを並べ、眺めながら、まだ決まっていない部分に印を付ける。同時に多くの「もしも」や「なぜ」を考える。

今、思い浮かぶシーンを挙げてみる。主な出来事を箇条書きににてみる。決まっていない部分をどうするかは後回し。ひたすら空想する。書けたものを時間を置いて見直し、漠然としている部分にチェックを入れる。疑問を掘り下げると、また新たな疑問が生まれる。

意識を開放する。脇道に逸れたり、細い隙間や隅っこまで探しまわるように夢想する。探検ヘルメットを被り、サファリに出かけるように。ひらめいてはっとするとき、胸が詰まる感じが本当にしたら、そのアイデアは使えるかもしれない。ストーリーや人物を考えているときに、胸が引き裂かれそうに感じたり、喜びで胸がいっぱいになったりするときは、読者にも似た体験をしてもらえる可能性が高い。

アウトラインが形になり始めたら「動機、欲望、ゴール、葛藤、テーマ」を意識する。ときどき一歩引いた目線で評価し、早いうちにすべての要素が揃っているかを確認する。


▼動機、欲望、ゴール
読者は登場人物の行動を見て、人物像を理解しようとする。それよりも人物が「したいこと」に興味を引かれる。善意や悪意をストレートに行動に移せないときがあるが、こうしたいなぁという気持ちは、その人にとっての真実。人物の人となりは行動に表れる。だがそれ以上に、行動の意図(動機)に表れる。登場人物について、したい行動と動機のリストを作ろう。

率直な人物を描くには、動機と行動を一致させる。
複雑な内面を持つ人物を描くには、動機と行動の不一致を垣間見せる。

フィクションの中核にあるのは主人公の欲望。主人公に強烈に何かを求めさせなければならない。欲望がエネルギーを生み、主人公は様々な障害を乗り越える。人物が何かを求めて何かにぶつからない限り葛藤は起きない。

欲望の対象は、物、人、心の状態、勝利、脱出、場所など。人物のゴールはプレミスによってまちまちだが、燃えるような消し難い欲望が必要。


▼葛藤
葛藤や対立はどのように作るのか。人物の動機、欲望、ゴールを設定し、人物とゴールの間に障害物を置くだけ。小説に力を与えるのは葛藤であり、葛藤に力を与えるのは人物のフラストレーションだ。主人公が勝利や幸福に王手をかけたときに、近道を与えずに遠回りさせる。

どんなストーリーも人間関係が中心だから、人物どうしを衝突させれば面白い葛藤が作れる。主人公が主に衝突するのはメインの敵対者。そのほかの脇役にも小さな衝突をさせる。

予想外の状況を与えてもいいだろう。予想外の状況や、価値観が合わない人との関係などに人物を引き込むことができるだろう。例えば、内気な主人公が人前で演説をすることになったらどうなるか? プレッシャーに負けるか、立ち上がるか。

対外的な葛藤や対立と同様に、心のなかの葛藤も大切。人物の内面と外面の両方を描けたら、深く豊かな人物表現ができる。障害に対する身体的・物理的な反応と、出来事に対する心理的・感情的な反応の両方を描こう。

強弱のバランスが大切。ずっと緊張させ続けるのではなく、たまには休ませて次の策を練る時間を与えよう。


▼テーマ
私たちは問題を投げかける刺激的な小説が好き。娯楽のために読みながら、学び、成長し、視野を広げたいと望んでいる。そんな望みを満たせるのは、真実を深く追求した作品だけ。そんな作品を描くには、作者自身が心から情熱を傾ける信念や真実を吐露しなくてはいけない。創作における最強の武器は、世界をあまねく見渡す独自の視点だ。

物語にメッセージを込めることは、作者の信条や持論を直接書くことではない。作者が強く信じるテーマでもがく人物を多面的に描くこと。そして、読者が厳しい問いを自分に投げかけたくなるようなプロットを作ることだ。小説家の仕事は答えを提示することではなく、疑問を投げかけることだ。

人物の行動やリアクションから自然にテーマが浮き上がる。テーマを強く打ち出すには、人物を強く前進させること。インサイティング・イベントからクライマックスにかけての人物の変化が、作品のテーマと結びつく。ただし、変化は人物の内面から発生させること。
  • 主人公の心の葛藤は?
  • ストーリー上の出来事で、主人公のどんな考え方が変化する?
  • 主人公の考え方は、どのように、なぜ変わる?

キャラクター・スケッチ

▼背景(バックストーリー)
太陽の光に輝く氷山はほんの一角で、それを支えるのは水面下にある8分の7。この隠れた部分がバックストーリーだ。本編の裏にあるストーリー。本編が始まる前の物語であり、人物の決断や行動を生み出す源なので、物語の進行や整合性づくりに欠かせない。目的は本編の方向をつかむため。バックストーリーを見れば、その人物の動機が分かる。

バックストーリーはどこから考え始めるか? 本編が動き出すところ、インサイティング・イベントを起点に考える。インサイティング・イベントでは、人物を取り巻く世界が後戻りをできないほど変わる。ドミノで言うなら最初のピースを倒す瞬間に当たる。人物の過去を作るとき、この鍵の部分から逆算していくと良いアイデアが浮かぶ。

  • インサイティング・イベントに遭遇する原因になった過去の出来事は?
  • インサイティング・イベントに人物がそんなに反応するのは、過去に何があったからなのか?
まずは大まかな背景を考える。それを起点に人物の動機と経歴を考える。
大枠が書けたら、出生地と生年月日を決め、その人物が影響を受けた人たちとの関係を考える。両親は誰で、どんなバックストーリーを持っているか? 主人公が子供時代に受けた影響に絞って考える。主人公と兄弟姉妹、そのほかの主要人物との関係も探る。人物の動機の真相が垣間見えそうな情報に注目する。

本当に探すべきものは、人物の人生を左右する忘れられない出来事。ひとつバックストーリーを考えるたびに、必ずひとつ、人物への見方を変える宝のようなものを見つける。深い洞察から得た情報は強い土台を作る。そのかけらがちらりと本編に見えれば、ストーリーが一層輝く。

バックストーリーは適度に。軽く流さず、負荷をかけ過ぎずという按配が大事。バックストーリーが関与する時間・場所と、そうでないものがある。丁寧に作った背景を読者に披露したい気持ちは山々だが、冷静に。読者が知りたいのは、次に何が起きるかだ。バックストーリーは第1章の直前の基本的な出来事を知らせるためだけに存在する。だらだら描くと読者の気を逸らしてしまう。水面下にある氷山の存在はちらりと知らせるだけにして、物語を前進させよう。


▼インサイティング・イベントとは
「この先、主人公はこれまでと同じように歩き続けられるか?
 もし答えがイエスなら、まだ最初の戸口まで来ていない証拠だ」

インサイティング・イベントが起こるのは、冒頭から4分の1ほど進んだあたりが目安。それまでに人物紹介や問題点、舞台設定をしっかりしておくと、読者はインサイティング・イベントで人物に共感し、ことの重大さを理解してくれる。それぞれが人生を歩み、それぞれの道がインサイティング・イベントで交差する。


▼人物インタビュー
人間関係や価値観、秘密について質問しながら考える。時間がかかるので、主観をとる人物と敵対者などの主要人物のみで十分。

人物の性格を9つのタイプで診断する「エニアグラム」は人物の長所と短所のバランスの確認に使える。


舞台設定

「環境を通して人となりを描く」
周りの風景、我が家、わが町に対する反応を描けば、その人物の姿が分かる。その場所が嫌いか? もし嫌いなら、なぜそこに住み続けているのか? そこで育ったのか? もしそうなら、どんな影響を受けたのか? 場所に対するリアクションで舞台設定を伝えながら、人物のことも明らかにできる。

舞台設定で、読者に感じてもらいたいムードを伝えることもできる。

舞台設定は、プロットを効果的に展開できるように意図的に選ぶ。面白い舞台設定は細部まで想像して活用し、読者の興味を引きつける。たくさんの場所を浅く描くより、魅力的な舞台を一つに絞る方が読み応えがある。メインの舞台以外の場所はできるだけ統合する。舞台の数を減らせば、伏線を張るチャンスが増える。

「ファンタジー世界構築クエスチョン」(パトリシア・C・リーデ)


  • 風景は?
  • この世界で社会はどうなっている?
  • テクノロジーはどのくらい発達している?
  • この世界の自然の法則は?
  • この世界にはどんな人々がいる?
  • この世界の歴史は?


詳細アウトライン

詳細アウトラインでプロット作りが本格的に始動する。できるだけ詳しく、ストーリーの洋書を並べていく。ポイントは後でアイデアが追加できる余地を残しつつ、各シーン内の大きな出来事をしっかりと立てること。基本的にセリフや地の文、心の声は書かない。シーンに番号を付ける。

「自分が一番読みたいと思うストーリーを想像してごらん。それを書けばいい」
自分にとって完璧な小説とは? 自分が好きな小説や映画の、どんな部分に心を引かれるのか。

▼誰の主観で書くのか?
主観(Point of View)は物語の決め手。どのシーンを書き、どのシーンを描かないかを左右する。誰の主観を選ぶかで、閉じる扉、開く扉が分かれる。

主観をとる人物の数を適切に。主観は少数に絞るほど効果的。主観を分散させればより多くのディテールが描けるが、メインの主観の力を弱めかねない。主観をとる人物は心情が表現されやすい。感情的に激しく反応しそうな人物の主観にとるとどうなるか? 複数の主観を使うと、読者は複数の人物の視点からものごとを見ることができる。主観をとる人物を増やすほど、読者の関心や愛着が分散する。いろいろな人物の主観をとると、ストーリーは寸断されて焦点がぼやけてしまう。

▼欠かせない3つの要素
人間関係・アクション・ユーモア。3つの要素の配分は作品によって異なるが、好きなどの小説もどれかが突出しているはずだ。

ユーモア。ユーモアは読者を楽しませ、登場人物に愛着を感じさせる。シリアスな場面の息抜きになり、暗くなり過ぎないようにバランスを保つ。「悲劇の極みの中でも、笑いを誘うものは常にある」

アクション。名作には必ず葛藤や対立が描かれている。葛藤や対立を描くにはアクションが必要。

人間関係。ストーリーとは人間の体験を表すもの。そして、その体験の根本にあるのが人間同士のやりとりなら、小説の核心は人間関係にあるはずだ。恋愛関係や家族関係、友人関係など。あらゆるストーリーの根底には、人間関係、あるいは人間関係の薄さへの嘆きがある。異なる人間関係を対比しながら心のつながりと断絶を描き、悲しみも勝利の喜びも際だたせる。

▼ドミノ式展開
ストーリーのシーンはドミノのピース。読者に読み進んでもらうには、一つのシーンが次のシーンに直接、影響を与えなくてはいけない。次のシーンに影響しないなら、削ってもプロットが成立するなら、そのシーンを削るか書き直そう。プロットの空白が見つかったら、順序をさかのぼって考える。


清書版アウトライン

「詳細アウトライン」は執筆時に読み返すのが大変なので、重要事項をさっと参照できるように新たに作るものが「清書版アウトライン」。詳細アウトラインは紙にペンで、清書版アウトラインはパソコンに入力しています。

使えない部分は削除し、使う部分は磨く。削除できるシーンや一つにまとめられるシーンはないか。作りやパワーが弱いシーンに目星を付ける。人物や舞台設定も同様に。スリム化を意識する一方で、ストーリーが求める語り方を大切にすることも忘れずに。

▼章の区切りを考える
シーンをどこで区切るかは重要な課題。読者に強い好奇心を抱かせる終わり方が必要。どんな章やシーンにも葛藤や緊張を加え、「次はどうなるの?」と思わせるにはどうしたらよいのか? ポイントは読者に疑問を抱かせること。

  • 対立の予感を匂わせる
  • 明かされない秘密
  • 大きな決断や誓い
  • ショッキングな出来事の知らせ
  • 感情の高まり
  • ストーリーを逆転させる事実の発覚
  • 新しいひらめき
  • 答えが示されない問い
  • 謎めいたセリフ
  • 何かの前兆を予感させるメタファー
  • ターニングポイント