冥王星



米国航宇宙局(NASA)の無人探査機「ニューホライズンズ」が、日本時間の7月14日午後8時49分、9年半の長旅を経て、冥王星に最接近し通過した。接近距離は1万2500キロ。取得データはこれから約16カ月かけて地球へ送られる。探査機は最接近前後の9日間で380種類以上の観測をしており、来秋にかけて結果を送ってくる。
ニューホライズンズの観測データの受信には16か月かかる見通しで、その分析と研究には何年も要する。また、ニューホライズンズの探査目標は冥王星や衛星カロンだけではない。太陽系形成のなぞを紐解く数千個もの天体が存在するカイパーベルトの中を飛行して、今後も探査を続行する。
公開映像で、星の表面には、おそらくメタン、窒素、一酸化炭素などの霜から成るであろう大きなハート形の模様が目立っている。NASAはこの領域を、冥王星の発見者トンボーにちなんで「トンボー領域」と命名。そこには、氷でできていると思われる富士山クラスの高さの山がいくつも確認できる。そばに凍りついた平原が広がり、亀裂のようなものが走っている様子が見られます。この平原は「スプートニク平原」と呼ばれている。わずかながら窒素を主成分とする大気があることも確認されている。



最接近前の7月13日に地表から約77万kmの距離から撮影された冥王星


星の表面には、おそらくメタン、窒素、一酸化炭素などの霜から成るであろう大きなハート形の模様が目立っている。NASAはこの領域を、冥王星の発見者トンボーにちなんで「トンボー領域」と命名した。

冥王星などでは地質活動が続いている可能性が浮上している。ハート形の地形の一部などに、隕石が衝突してできるクレーターがなく、1億年以内に生まれたとみられる比較的「新しい」地形が見つかったからだ。地質活動は太古に停止したとみられていたが、内部で続いている可能性がある。

フライバイ時に撮影された冥王星(富士山クラスの3500m級の氷山





最接近1時間半前に、冥王星上空約7万7000kmから「ハート模様」の南端付近をとらえたもの。全球の1パーセントにあたる領域で、3500m級の山々が存在している様子がはっきりとわかる。(カラーバーの50マイルは約80km)

これらの山々は水の氷でできているとみられている。どうやら1億年以内に形成されたもののようで、約46億年という太陽系の歴史の中では極めて若いものといえる。冥王星では今でも地質学的な活動が起こっている可能性を示唆する観測結果だ。木星や土星の周りを回る凍った衛星とは異なり、冥王星ははるかに大きな天体との相互作用で熱を生み出すということがないので、山々を作っているのは何か別のプロセスなのだろう。

活動の原動力になっている熱源はわかっていない。探査チームは、天体内部で放射性元素が自然崩壊して出す熱の可能性が高いとみている。

▼3500m級の氷山
→どうやってできたと考えられる?
→水の氷でできている?
→1億年以内にできた?
→今でも地質学的な活動が起こっている可能性がある

→今でも地質学的な活動が起こっている理由として考えられることは?
 - 大きな天体の潮汐力で熱を生み出している?
 - 天体内部で放射性元素が自然崩壊して出す熱の可能性が高い?

冥王星のメタンに関する分光観測データ



左の画像中、破線で囲んだ領域におけるメタンの存在量を示したグラフ。北極領域と赤道領域でメタンの氷の量が大きく異なっている。

冥王星の氷原(クレーターのない氷の平原



冥王星から約7万7000kmの距離から撮影。クレーターのない広大な氷の平原がとらえられた。同地形の年齢は1億歳以下と若く、いまでも地質学的なプロセスが進んでいるのかもしれない

▼クレーターのない氷の平原。地形の年齢は1億歳以下と若い
 →この平原はどうやってできた?
 →今でも地質学的なプロセスが進んでいる可能性がある

氷原は、すっかり冥王星のシンボルとなった「ハート模様」(冥王星発見者クライド・トンボーにちなんで非公式に「トンボー領域」と名付けられている)中、南の領域に位置している。「スプートニク平原」(これも非公式)と名付けられたこの地形がどのようにできたのか、説明は簡単にできるものではなく、最接近前の予想を上回る発見だという。

連続する不規則な形は幅およそ20kmほどで、溝のように見える地形に囲まれ区切られている。溝の一部には暗い物質が存在し、溝に沿って周囲の地形よりも盛り上がった丘のような地形が集まっているところもある。さらに、表面に小さなくぼみができている領域も見られ、氷が昇華した際にできた可能性がある氷原には同じ方向に揃った長さ数kmの暗い筋も見つかっており、氷原に吹く風が作ったものかもしれない

▼溝の一部には暗い物質が
 →これは何?

▼表面に小さな窪み
 →氷が昇華したときにできた可能性がある

▼同じ方向にそろった長さ数kmの暗い筋
 →風が吹いている可能性がある


谷に囲まれた数十キロほどの地形が集まり亀の甲のような模様で分布している。水たまりの泥が乾くときにひびが入るように、表面の物質が固まってできたか、冥王星内部に何らかの熱源があり、氷状の窒素やメタンなどが暖められて、泡が浮かび上がるようにしてできたとみられる表面には、同じ方向に延びる複数の黒っぽい筋も見つかり、風が吹いている可能性があるという。

▼亀の甲のような模様
 - なぜこのような模様ができたのか?
 →冥王星内部に何らかの熱源があり、氷状の窒素やメタンなどが暖められて、
  泡が浮かび上がるようにしてできた可能性がある

トンボー領域の西半分に見られる一酸化炭素の分布


可視光・紫外線撮像装置「Ralph」による観測から、同領域に一酸化炭素の氷の存在が明らかにされた。一酸化炭素の量は中心にいくほど増えているようだ。

▼一酸化炭素の氷が存在する

窒素イオンで占められている太陽風内の空洞、プラズマの尾などを示した図


冥王星周囲太陽風観測装置「SWAP」は最接近から1時間半後に太陽風内の空洞を観測し、冥王星の背後(太陽の反対方向)に10万km前後にわたって長く伸びる、窒素イオンで占められたプラズマの尾を検出した。大気が太陽風によってはぎとられ、宇宙空間へと放出されているのだろう。

今後、紫外線撮像装置「Alice」と電波実験装置「Rex」による大気計測データから、冥王星の大気喪失の割合が解明されるだろう。冥王星の大気と表面の進化の謎が明らかにされたり、太陽風との相互作用の範囲が決定できたりすると期待される。


「ノルゲイ山地」の北西約110kmに見られる山々



探査機「ニューホライズンズ」の望遠撮像装置「LORRI」が7月14日に冥王星上空7万7000kmから撮影したもので、差し渡し約1kmほどのものを見分けられる解像度だ。冥王星の全体像に見られるハート型の「トンボー領域」の南西部(左下付近)がとらえられており、明るい氷原と暗くクレーターの多い大地の境界部にそびえる山々が見える。

すでに公開された画像からは3500m級の氷山が連なる「ノルゲイ山地」が発見されていたが、今回新たに発見された氷山の高さは1000mから1500mほどと低い。

「東側に位置する、若い地形である明るい氷原と、暗くクレーターの多い西側の地形には、明らかな違いがあります。2つの間で複雑な相互作用が起こっているのでしょうが、詳しいことはまだわかりません」(NASAエイムズ研究センター Jeff Mooreさん)。

右側の「スプートニク平原」は形成から1億年以下と地質学的に比較的若いと考えられ、暗い領域はおそらく数十億年前の地形とみられている。Mooreさんはとくに、明るい堆積物のようなものが古いクレーターを満たしているように見える点(たとえば、中央のやや左下に見える明るい円形地形)に注目している


スプートニク平原周辺に見られる地形(窒素の氷河が流れている



ハート模様のトンボー領域内の西(ハートの左半分)に位置するスプートニク平原に見られる様々な地形が詳細にとらえられている。興味深いのは広範囲を覆う窒素の氷河(氷床)の流れた跡だ。地球の氷河と同様に、今も流れているかもしれない

クトゥルフ領域とスプートニク平原周辺に見られる地形



スプートニク平原は窒素だけでなく一酸化炭素やメタンの氷も豊富なようだ。トンボー領域の一番南には古いクレーターの多いクトゥルフ領域があり、暗いこの領域に新しい氷が押し寄せているように見える。中央やや下には氷で埋められたらしいクレーターもある。

冥王星の擬似カラー画像


「LORRI」による高解像度データと「Ralph」によるカラーデータを合成して作成。色を強調した画像からは、表面の様子や組成の違いがわかる。赤道上に最も暗い地形があり、中緯度地方は中間色、北極領域は氷が広がっていて明るく見える。おそらく、季節の移り変わりと共に氷が赤道から極へと運ばれるためだろう。

冥王星の右下に沿うように北東から南西へと伸びる青白っぽい地形には、スプートニク領域から氷が運ばれているのかもしれない。

冥王星のシルエットと大気のリング(大気のもや


冥王星最接近から7時間後に探査機「ニューホライズンズ」は冥王星を振り返り、冥王星の周囲の大気を通り抜けた太陽光が作り出したリングをとらえた。

画像の初期分析から、大気中の高度約80kmと約50kmに2層の「靄(もや)」が存在していることがわかった。靄は、冥王星を赤っぽく見せている炭化水素化合物を作る上で鍵となる要素だという。

▼2層のもや(高度約80kmと約50km)
 →もやはどうやって形成された?


モデル計算からは、太陽の紫外線がメタンを分解すると靄が形成されることが示唆されている。メタンの分解から冥王星の大気中に見つかっているエチレンやアセチレンなどの形成が引き起こされ、大気中でより低温の層へと落ちていくと靄ができるのだ。紫外線はさらに靄を赤茶色のソリンに変化させ、これが冥王星の色として見える

これまでの計算では、冥王星の上空30km以上は温度が高く、靄はできないとされてきた。冥王星で何が起こっているかを理解するには、別の新しい考え方が必要なのだろう。