絶え間なく流れる河川や農業用水を利用し、水車を使用して発電する、小さな規模の水力発電、いわゆる「小水力発電」。大規模なダムも必要なく、環境への負担は少なく済む。
【導入事例】
山梨県都留市役所 市役所で使う15%の電力を小水力発電でまかなっている。
京都府嵐山 桂川に設置した発電機で渡月橋に明かりを灯している。
栃木県那須塩原市 那須野ヶ原土地改良区連合では、農業用水を利用した発電機をこれまでに7基建設。合計出力970kWは、約500戸の家庭が使う電力に相当する。これを売電することで、土地改良区の水門や事務所など、農業施設の電気代にあてている。これにより、地元農家の負担は、年間、合計で千数百万円軽減されるという。
地元農家の人は「(農家一戸あたり年間で)4万円ぐらい得しているのかな」と話す。那須野ヶ原土地改良区連合の星野恵美子事務局長は、「農家の方は高齢化がすすんでいたり、生産物の生産性が上がらなかったりして、結構厳しい。農家の負担軽減を図られるものは何かということで考えたのが農業用水路を使った小水力発電だ」と説明する。
愛媛県旧別子山村(現・新居浜市) 戦後間もない頃から現在まで、自然に流れる水を利用し、村全体の電力をまかなってきた。河川の上流で採取した水を、パイプで落とし、その勢いで発電所の水車を回す。管理運営は、村から大手の会社に引き継がれたが、現在も約150世帯の電力を自然の水から生み出している。電気代も通常の4分の3程度。かつては、山間部を中心に小水力による電力の自給自足は決して珍しくなかった。しかし大手電力会社の送電網が整備されるに従って、次第に姿を消していった。
富山県富山市の小さな集落の農家 今夏から、山の水を利用して家庭や農業で使う電気の自給自足をしようと、水車の建設が始まった。この実験は、独立行政法人「科学技術振興機構」の助成を受けて、富山国際大学(上坂博亨教授)が実施するものだ。水を高出力の小型水車と直径4mの「上掛け水車」という2つの水車へ送る。落差12mのエネルギーを利用して、2台の水車を回し、あわせて1.5kWの発電を目指すという実験。1.5kWは、ちょうど農家一軒をまかなえる程度の電力だ。実験に協力している農家、橋本さん夫妻は、この地で野菜作りや養鶏などを通じ、食糧の自給自足を行ってきた。今度は、水車の発電によって、家庭の照明など、生活に必要な電力をまかなうことを目指している。さらに、橋本さんは、卵などの配達に1日50キロ走るため、水車の発電で充電できる電気自動車を導入した。妻の順子さんは、「水が豊かなところだから、その水でエネルギーも自給できないかと。小水力発電というものに期待している」と話す。着工から半年経った12月、いよいよ水車が完成した。
【課題】
①手続きが複雑 河川の管轄は、国土交通省、農業用水路は農林水産省で、発電は経済産業省で、電話帳ほどの申請書が必要。長野県大町市に住む川上博さんは、自宅前の農業用水路で発電を始め、家庭の電力の半分をまかなっているが、許可を得るのに申請してから1年1カ月かかったという。
②売電価格が安い 太陽光発電の場合、48円/kWhで買い取られることになったが、小水力発電は10円/kWh程度だ。経済産業省では、小水力発電も含めた再生可能エネルギーの普及に向け、買取価格などの検討を進めている。全国小水力利用推進協議会の中島大事務局長は、小水力発電の普及には、「手続きが1カ所で済むようにするということが大きな鍵。また、買取価格は大体25円kWh。特に規模の小さいものなら30円kWhぐらいで買ってもらえれば、補助金がつかなくても、経済的に成り立つ発電所がつくれる」と話す。
【Person】
全国小水力利用推進協議会 中島大事務局長
那須野ヶ原土地改良区連合 星野恵美子事務局長
富山国際大学 上坂博亨教授
【Link】
小水力発電ニュース ガイアの夜明け 自然エネルギー技術開発会社「シーベルインターナショナル」 農林水産省・小水力発電の導入に向けたトータル支援