南部先生、ペンタクォークが見つかりましたよ



身の回りの物は何でできているのか?
好奇心を突き詰めると、小さな粒に行き当たる。
その粒が2、3個集まった粒子は知られているが、
5個も集まった粒子が、新たに見つかった。
その名も「ペンタクォーク」だ。

お久しぶりです。福田大展です。5つの素粒子で作られる粒子「ペンタクォーク」の存在を確認したという研究成果が14日に、欧州原子核研究機構(CERN)により発表されました。冥王星の美しい画像に見とれていたら、ツイッターでこのニュースを見つけたので、久しぶりに慌てて筆を取りました。ペンタクォークとはどんな粒子なのか? どんな実験で見つかったのか? じっくり見ていきましょう。


すべての原子は3種類の「素粒子」でできている

あたりを見回してみてください。何が見えますか? 私は本屋にいるので、本棚やたくさんの本が並んでいます。立ち読みをしている人の姿も見えます。皆さんは私と違う風景が見えているでしょう。しかし、私が見ているものも、皆さんが見ているものも、目に見えるすべての物質は、たった数種類の小さな粒「素粒子」でできているんです!



身の回りのものは原子でできています。どんどん細かく見ていきましょう。原子は中心にある原子核と、周りにある電子でできています。そして、原子核は陽子と中性子が集まったもの。さらに、陽子と中性子はアップクォークとダウンクォークという2種類の粒でできています。つまり、突き詰めると原子は「電子」と「アップクォーク」と「ダウンクォーク」の3種類の素粒子でできているんです!

物質をつくる素粒子は何種類?

物質をつくる素粒子は、この3種類だけでしょうか? 小林誠博士と益川敏英博士は1973年、「6種類のクォークがある」と理論的に予測しました。先ほどの「アップ」と「ダウン」に加えて、「チャーム」、「ストレンジ」、「トップ」、「ボトム」です。現在では、6種類のクォークが実際にあることが実験で確かめられ、2人は2008年にノーベル物理学賞を受賞しました。さらに、レプトンと呼ばれる電子の仲間も、6種類あることが分かっています。




そして、物質をつくる素粒子は上の図で示した12種類なのですが、それぞれに「影武者」がいるんです。質量はまったく同じで、帯びている電気のプラスとマイナスが逆になった「反粒子」です。




ペンタクォークってどんな粒?

今回、注目されているのはクォークです。クォークには「強い力」というクォーク同士を引きつける力が働き、複数のクォークが集まってひとつの粒子を作ります。一番身近なのが、先ほどの説明にもでてきた、陽子と中性子です。いずれも3つのクォークからできています。このように3つのクォークからなる粒子を「バリオン」と呼びます。また、クォークと反クォークのペアでできたものを「中間子(メソン)」と言います。



さらに、4つ集まったものを「テトラクォーク」といい、5つ集まったものが今回の主役の「ペンタクォーク」なんです。この4つと5つが集まった粒子は、理論的には存在すると考えられていますが、まだ確実には見つかっていませんでした。

どうやってペンタクォークを作ったのか

時速100kmでまんじゅうとまんじゅうが正面衝突したとします。(福田はいきなり何を言っているんだ!暑さでおかしくなったのか)何が飛び出てくると思いますか?



あずきの粒やあんこ、餅が砕け散って飛び出てくるでしょう。つまり、まんじゅうの中にあるものが出てきます。しかし、陽子と陽子をほぼ光の速さでぶつけると、面白い現象が起こるのです。陽子の中にはアップクォークとダウンクォークがあるので、普通に考えると、それらの粒が出てきそうですが、まったく違う粒が飛び出してくるのです!


陽子をほぼ光速でぶつける

これが陽子をほぼ光速に加速して衝突させる実験装置です。その名も、大型ハドロン衝突型加速器「LHC」。大型というだけあって、大きさは1周27km。地下100mの地下に山手線一周(34.5km)に近い長さのトンネルが掘られています。そのトンネルの中で、陽子を光速の99.999997%まで加速させます。そして、1秒間にトンネルを1万周ほど回る速さまで加速させた陽子を、「ガシャン!!」と正面からぶつけるのです。この装置の中には、衝突を観測する4つの巨大な検出器があり、そのひとつが今回ペンタクォークを見つけた「LHCb」と呼ばれるものです。



陽子と陽子の衝突の瞬間には何が起こっているのでしょうか。なぜ違う粒が飛び出してくるのでしょうか。その謎を解く鍵を握っているのが、この式です。



アインシュタインが考えた相対性理論に関係する式で、一度は耳にしたことがあるかもしれません。「E」はエネルギー、「m」は質量、「c」は光の速度です。この式は「エネルギーと質量は変換できる」ということを意味しています。つまり、エネルギーは質量を持つ粒子に変えられるし、その逆も成り立つということです。

具体的に見てみましょう。陽子と陽子をほぼ光速で衝突させると、粒はいったんエネルギに変わり、とても大きなエネルギーが生み出されます。そして、そのエネルギーの大きさに見合った別の粒子が新たに生み出され、飛び出してくるのです!




実際の実験では何が起こったのか

それでは、今回の実験では衝突の瞬間に何が起こったのかをじっくり見てみましょう!(強い意志を持ってついてきてください!)



【①】陽子の衝突のエネルギーで最初に生み出されたのは、「ラムダ粒子(Λ)」というバリオンの仲間でした。ラムダ粒子にはいくつか種類がありますが、今回のものは「ラムダb」という粒子で、アップとダウン、ボトムでできています。

【②】せっかくできたラムダ粒子ですが、一瞬で崩壊して別の2種類の粒子に変わってしまいます。そのひとつが、ペンタクォークだったと考えられているんです! 5個のクォークの内訳はアップが2個、ダウンとチャーム、反チャームが1個ずつです。そして、壊れでできたもうひとつの粒子が「K中間子」の仲間です。K中間子にもいくつか種類があるのですが、今回のものは「マイナスの荷電K中間子」で、ストレンジと反アップでできています。

【③】しかし、このペンタクォークも一瞬で崩壊して、2種類の粒にかわってしまいます。ひとつは陽子。もうひとつは「ジェイプサイ中間子(J/ψ)」と呼ばれる中間子で、チャームと反チャームのペアでできています。

【④】さらにジェイプサイ中間子は、2つのミュー粒子に崩壊します。



上の図が実際LHCbで観測した実験結果です。確かに、最終的にK中間子と陽子、2個のミュー粒子が飛び出していますね! しかし、皆さん思いませんか。検出されたのは、K中間子と陽子と2個のミュー粒子なのに、「なぜ途中の崩壊するプロセスまで分かるの?」って。

先ほどの建設途中のLHCbの写真を見ると、アヒルのくちびるのような形をした黄色い物がありますよね。実は、あそこに電流を流すと巨大な電磁石になるんです。そして、衝突によって発生した粒子が電磁石の間を通るときに、電荷を持っている粒は曲がります。その曲がり具合から、飛び出してきた粒子の運動量(質量×速度)や、帯びている電気の量がわかるんです。さらに、粒子の速度や、軌跡から崩壊した場所を特定する装置も備わっています。なので、検出された粒子の情報から元をたどっていけば、崩壊する前の粒子の質量などが計算で求められ、どんな粒子か推測できるのです!


▼南部先生
私がこの記事を書いている最中に、南部陽一郎先生の訃報を知りました。私は福井県の藤島高校の卒業生なのですが、南部先生はその前進の旧制福井中学をご卒業されており、私の大先輩にあたります。直接の接点はありませんが、科学館で働き始め、素粒子物理学のことを知れば知るほど、南部先生の偉大さが身にしみました。

南部先生は「対称性の自発的破れ」という理論の発見で、2008年のノーベル物理学賞を受賞しました。そして、それだけでなく、2013年に同賞を受賞した「ヒッグス機構の理論的発見」の考え方にも、大きく影響を与えています。(そのときの話は、このブログでまとめています。)

「世の中はどんな法則でできているのか」という根源的な知的好奇心に対し、南部先生の研究は何度も私の心を鷲掴みにしてワクワクさせてくれました。良い小説や音楽と出会った時のように、ドキドキさせてくれました。ありがとうございました。お悔やみ申し上げます。南部先生は研究の最前線から離れてからも、学問への向上心は持ち続けていたと聞いています。南部先生は今、ペンタクォークの発見のニュースを聞いて、何を思っているのでしょうか。

























経緯

5つの素粒子で作られる粒子「ペンタクォーク」を発見したという研究成果を、欧州原子核研究機構(CERN)が14日に発表した。 大型ハドロン衝突型加速器(LHC)に設置された実験装置のひとつの「LHCb」を使った研究チームが検出した。


ペンタクォークとは

▼バリオン
3つのクォークで構成される。スピンが半整数のフェルミオン。例えば、陽子(uud)や中性子(udd)などがある。

▼メソン(中間子)
クォークと反クォークのペアで構成される。スピンが整数のボゾン。

▼テトラクォーク


▼ペンタクォーク
クォーク4個と反クォーク1個で構成される重粒子。


LHCb実験

大型ハドロン衝突型加速器「LHC」では、陽子と陽子を正面から衝突させてエネルギーを生み出し、その中から生まれる粒子を検出する実験装置。主に4つの巨大な観測装置があり、それぞれ「ATLAS」「CMS」「LHCb」「ALICE」という名前の検出器がある。


LHCb(LHC-beauty)では、ボトムクォークを含む「B中間子」をたくさん作ってその振る舞いを調べ、標準理論を検証している。写真は建設途中のLHCb。

実験結果

バリオン「Λb」が、以下の3つの粒子に崩壊した。
「J/ψ中間子」「陽子(proton)」「K-・荷電K中間子(Kaon)」

できたペンタクォークは、以下の5つの素粒子で作られていたと考えられる。
2個のアップクォーク(u)、ダウンクォーク(d)、チャームクォーク(c)、反チャームクォーク(anti-c)

ラムダ粒子とは、アップクォーク(u)とダウンクォーク(d)、もう一つのクォークでできたバリオン。ボトムラムダ(Λb)は(udb)。

J/ψ中間子とは、チャームクォークと反チャームクォークからなる中間子。別名チャーモニウム。
K中間子には、K-、K+、K0、K0バーの4種類がある。K-はストレンジクォークと反アップクォーク、K+は反ストレンジクォークとアップクォーク、K0は反ストレンジクォークとダウンクォーク、K0バーはストレンジクォークと反ダウンクォークでできている。K-とK+は荷電K中間子と呼ばれる。K0とK0バーは中性K中間子と呼ばれる。