上杉隆


 1968年、福岡県生まれ。ジャーナリスト。都留文科大学卒業。鳩山邦夫の公設秘書を務めた後、ニューヨークタイムズ記者を経て現在フリー。著書に『宰相不在』(ダイヤモンド社)、『世襲議員のからくり』(文春新書)など。

 「記者クラブ問題」を追い続けている。

5月初め、公約した小沢代表が辞任してしまう。代わって5月16日の代表選で、鳩山由紀夫氏が選出された。「公約」を確実にするために筆者は、ホテルオークラで行われる代表就任会見に向かった。
再び、最前列の中央の席を確保して、会見の開始を待った。NHKの生放送も入り、国民の多くが注目しているこのチャンスを逃すわけにはいかない。知己の民主党職員に頼んで、予め指名を受けやすい席を押さえておいてもらった。

筆者は、通常は、記者クラブの幹事社の座る場所で高々と手を挙げて指名を待った。ところが、何度挙手しても一向に当てられない。実はその日の会見担当の党広報スタッフは、情報公開の精神など微塵も持ち合わせていないことで有名なI氏であった。前列の記者クラブのメンバーがすべて指名されても、フリーランスの筆者の番は回ってこない。遂には、居眠りしていた新聞記者までが指名されるに至ってようやくI氏の意図を理解した。筆者に当てるつもりはないのである。
と、そのとき予想外のことが起きた。壇上の鳩山代表が他の記者の質問の最中に、「上杉君は、何で当たらないの」とマイクを通して問い始めたのである。不思議そうに「何で」を繰り返す鳩山氏に、「避けられているんですよ」と筆者が答えると、ついに鳩山氏はI氏に向かって言い放ったのだ。

「何で上杉さんを指さない? 最初からずっと挙げてるじゃないか」

1問目に世襲問題を質問し、次に本題に移った。筆者は、小沢前代表の3月24日の「公約」を持ち出して、鳩山民主党が政権を取った場合も首相官邸の記者会見を開放するのかどうか、改めてその方針を質したのだ。これに対して鳩山氏はこう答えた。

「小沢前代表は大変いいことをしてくださいました。記者クラブの問題などもありますが、情報公開の見地からも、国民の知る権利からも、オープンは当然のことでありますから、どうぞ民主党が政権を取った暁には、上杉さんも官邸にお越しください」