「ヒッグス粒子と思われる新粒子を発見した装置」として、知ってる人がいるかもしれません。大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider:LHC)は、CERN(欧州合同原子核研究機構)が建設した、世界最大の衝突型円形加速器です。その大きさは、直径27km。スイスとフランスの国境にまたがり、地下100mの地中に、山手線の一周ほどの長さのトンネルが掘られています。
こんな巨大な装置で、いったい何を調べるのでしょうか。地上でビッグバンを再現し「宇宙の始まり」を調べています。最初に、さまざまな元素の原子核をつくる「陽子」を、光の速さの99.999997%まで加速。なんと、1秒間にトンネルを約1万周します。その陽子と陽子を正面衝突させて、超高温状態を生み出し、宇宙のはじまりを地上で再現。飛び出てくる未知の素粒子を調べています。
なぜ、装置がこんなに大きいでしょうか。それは、陽子を光の速さまで加速させるためです。加速器の原理は、意外と簡単なんです。中学生の時に、親指と人差指と中指をつりそうになりながら、「電・磁・力」と指を曲げたのを覚えていますか。そうです。「フレミングの左手の法則」です。磁場をかけて電気を帯びた粒子に力を与えて動きを変えて、トンネルの中をぐるぐる回します。しかし、粒子があまりにも早いので、装置の円周を大きくせざるを得ないのです。そして、強力な磁場を作るために、大量の電気を使います。なので、電気代が高くなる冬は、実験が休みになるときもあります。
衝突により生まれた粒子は、「検出器」という装置で観測します。LHCにある検出器の一つは、ギリシア神話の巨人・アトラスにちなんで、「ATLAS」と名付けられました。「巨人」という例えに違わず、直径22m、長さ44m、重さ7000tもの大きさをしています。
筒状の検出器の中心部で、陽子と陽子が1秒あたり数億回も衝突。高エネルギー状態から飛び出した、粒子の種類や運動量を測定しています。装置を覆うセンサーの数は、1億1千チャンネル。1mmの10分の1の精度で、粒子が飛ぶ軌跡が分かります。
LHCは、2008年に稼働を開始し、2012年にヒッグス粒子と思われる新粒子を発見しました。偉業を成し遂げた後は、メンテナンスのために2年間ほど実験を中止。2014年に、これまでの2倍近いエネルギーの13テラ電子ボルトにパワーアップし、戻ってきます。そして未知の素粒子「超対称性粒子」の発見に、期待が寄せられています。
望遠鏡で見ることができる宇宙の光は、宇宙が誕生してから38万年後の「宇宙の晴れ上がり」まで。それ以前の宇宙を知るためには、加速器を使って、地上でビッグバンを再現するしかありません。LHCは素粒子を調べる顕微鏡であると同時に、昔の宇宙を知るためのタイムマシンなのです。
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